無防備なきみに恋をする | ナノ



Side girl


泣き喚く自分が、嫌で仕方ありません。
子ども扱いされるのが嫌だという思いから、朝倉さんに言われもない言葉をぶつけて、挙句わんわん泣き出すなんて……。
自分が、うっとうしい。嫌で、嫌で仕方ないです。


けれど……、
今のわたしの頭からは、自分の醜態すらも霧散していました。
だって……だって、今。朝倉さん・・・なんておっしゃいましたか?


「英子ちゃん・・・?」

「え、えぇ・・・?」

「……聞いてた?」

「あ、うぅ?」

「…………英子ちゃんのこと、好きだよ」

「…………!!!」


そ、空耳・・・ではないのですか? 夢ですか?
朝倉さん・・・何をおっしゃっているのでしょうか?

頭の中、いくつものはてなマークが浮かび上がってきます。
朝倉さん、好き? ピンクさん? ……あれ?


「ぴんくさん・・・」

「ピンクさんじゃなくて、英子ちゃんが好きなの」

「瑞江さん?」

「水田はないって」

「な、奈緒先輩・・・?」

「だーれ?」


クスクスと笑いながら、朝倉さんがわたしの言葉の一つ一つを否定していきます。
えっと・・・えーっと……!


「朝倉さん、パチンしてくださいっ!」

「え?」

「両手、顔の前でパチンって!」

「……こう?」


パチン。
朝倉さんが、わたしの顔の前で両手を合わせました。
鋭い音が鳴りました……が、目の前から朝倉さんは消えません。
目が覚めて、家にいました! なんて展開にもなりません。
……つまり、これは夢じゃないのでしょうか・・・?


「よいしょっと」

「あ、わわっ!」


何が起こっているのかわからずにあたふたしていると、朝倉さんが腰を上げて、わたしの隣に腰掛けました。重さが片側に寄って、思わず声を上げてしまいます。


「あ、さくらさ・・・」

「えいっ」

「ふみゅ・・・」


朝倉さんの両手が、わたしに向かって伸びてきます。
そして、両頬をぎゅっとつままれました。
ちょ、ちょっとだけ痛いですっ!


「むぅ・・・?」

「痛い?」

「ひょ、ひょっほらへ(ちょっとだけ)」

「夢じゃないでしょ?」


朝倉さんは笑顔のままわたしの頬から手を離してくださいました。
ゆ、夢じゃない・・・んですか?
え、えっと・・・。
朝倉さんには、好きな人がいて・・・。
ピンクさんでも、瑞江さんでも、奈緒先輩でもなくて……。
あ、あれ・・・?


「ちょ、ちょっと整理させてくださいっ!」

「え? ・・・うん、どうぞ」


許可をもらって、朝倉さんの言葉を整理します。
えーっと・・・ですね。


「朝倉さんには、好きな方がいらっしゃるのですよね」

「うん」

「ピンクさんでも、瑞江さんでも、奈緒先輩でもないんですよね?」

「全然違うよ」


うん。やっぱり全然違うらしいです。


「えーっと・・・。わたしは、朝倉さんをお慕いしているのですが・・・」

「お慕いって固いなー。…………ん?」

「自覚したのは先ほどなのですが、実際にはもっと前からお慕いしてまして・・・」

「え? ちょ、」

「なので、朝倉さんが好きな人が……万が一わたしだと、とてもうれしくて・・・。だから、これは夢じゃないかと思って……」

「え、英子ちゃんっ!」

「わっ!?」


うー・・・。整理すればするほど、目の前にいる朝倉さんはわたしの夢か幻である可能性が高くなってくるのですが……。
そう思いつつ、ぶつぶつと現状を整理する言葉を並べていると、突然目の前の朝倉さんが大声を出しました。
び、びっくりしました!


「あ、あのさ・・・」

「う、はい?」

「えーっと・・・。今の独り言?なんだけど・・・」

「あ、うぅ?」

「俺・・・思ってもいいかな?」


少し頬を赤く染めながら、朝倉さんがわたしの目を覗き込みました。
だ、だめですっ! この距離で、そのお顔は・・・反則ですっ!


「……英子ちゃん、俺のこと好きだって・・・思ってもいい?」

「……は、はい。好き、です」


整理はついていないのですが・・・。
わたしが朝倉さんのことを好きなのは、紛れもない事実で・・・。
いくら目の前の朝倉さんが幻だとしても、そのことに関しては、頷く以外のことはできません。
だから、わたしはこくんこくんと何度か頷きました。


「そ、っかぁ・・・」

「わぁぁあっ!」


頷いた瞬間、朝倉さんはにっこりと破顔して……そして、上から覆いかぶさるようにして、わたしを抱きしめてくださいました。
お、重い? あれ・・・?

「よかった」とつぶやいて、わたしを抱きしめる朝倉さん。
傾いた観覧車の中で感じる重みは……とても、幻のものとは思えなくて……。
ってことは……これってやっぱり、現実なのですか?
朝倉さんの好きというお言葉は……実際に、わたしに向かって言っていただいたものなのですか?

そんなことを考えていたら、途端に心臓がありえない速さで脈を打ち出しました。
体がカァッと熱くなるのを感じます。


「あ、さくらさっ・・・」

「あ、ごめ・・・」


心ごと、体が震えているのがわかります。な、なんだかまた涙が出そうです。
でも、日に何度も泣くようなお子様だと思われたくないですし……なにより、ちゃんと聞かなきゃ。
現実なのか、きちんと・・・聞かなくちゃなのですっ。


「え、英子ちゃん・・・?」

「ゆ、夢ではないのですか・・・?」

「っ、」


声が震えました。
聞いた瞬間、朝倉さんが消えてしまいそうな気がしたからです。

けれど、朝倉さんは消えません。
わたしの言葉を聞いて、少しだけうろたえたように見えました。
それから、温かい感触が頬に当たります。
先ほどつねられた頬が、今度は朝倉さんの両手によって包まれているようです。


「あさくら、さん・・・」

「夢かどうか・・・試してみる?」


かすれた声が聞こえました。
目の前にいるのは、真剣な表情の朝倉さん。
その顔が、徐々に近づいてきて――。






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