わん★わんだふる | ナノ



唯たんにも下心はあるの


「……分かった。なんでも言って」

「な、なんでも……」


目の前で仏頂面してそう言った笹川の顔を覗き込むようにして様子を伺うと、笹川はこくんと頷いた。
……なんでも、言うこと……。





……あ。
オレ、生田 唯って言います。こんな名前だけど、一応男だからな!
それから……えっと、笹川のことが……ずっと、好き。
いつからとか、きっかけとか覚えてねえけど……。
でも、気がついたらすげえ好きになってた。あっけらかんとした性格も、友達を大事にするところも、一本筋が通っているような真っ直ぐさも。……それに、すっげー可愛い、と・・・思う、し。





オレは、笹川との勝負に勝った。
すっげー不本意な勝負だけどな!
女装して、メイド服来て……指名率っつーか、集客率の高かったほうが勝ちっつーゲーム。
雪村が雪平に連れ去られてから、なんか指名してくるやつが多くなって……。で、気がついたら勝ってた。
気持ち悪いのに迫られたりもしたけど……。





「ほら唯。チャンスじゃねーか!」

「ま、とば・・・」


ゲームの発案者でもある的場が、オレの耳に向けて、こっそりと囁く。
……チャンス。
ゲームの勝者に与えられるのは、相手になんでも言うことを聞かせられるというもの。
そんなん、漫画の中とかの話かと思ってた。
……そして、そういう場面で男が女の子に命令するのは……。


「……っ、・・・」

「……おい生田、なに赤くなってんだよ!」


オレ、変態なのかな……?
笹川になにを頼むか考えていたら、すげえ恥ずかしくなってきて……。
顔が熱くなってしまったのを隠すようにうつむくと、委員長がぺしっとオレの頭をはたいた。
……痛い。
……つーかオレ、分かってるんだからな! 委員長、笹川のことやけに構うの、オレ知ってるんだ。今だって、ゲームの景品でオレがとんでもないこと言うんじゃないかってハラハラしてるの、見え見えだ。


なにはともあれ、うつむいている自分が恥ずかしくて、顔を上げる。
うー、やばい。絶対顔赤くなってる……!


笹川に変な目で見られていないか気になって、そっと覗き見ると、笹川は口元を押さえて、横を向きながら震えていた。
……だ、大丈夫かな? でも、笹川ってたまにこういう発作的なのを起こすんだよな。


「んで? 生田は千夏に、なにをお願いするの?」


笹川の行動に首を傾げていると、ふいに横から声がした。
声を発したのは、すっかり婦人警官の服を脱ぎ捨てた大澤だ。
椅子に腰掛けて、頬杖をつきながらにこにこ……いや、にやにやと笑っている。
……うー、ん。オレの気持ち、大澤にバレてんのかなー? 笹川は全然気づいてくれないけど……。


「えっと……」


どうしよう、どうしよう!
正直、女で……しかも、美人な笹川に勝つわけないと思ってたから、「命令」をどうするか考えてなかったんだ。
考えるとしたら……その、……いわゆる妄想ってヤツで……。
実際にお願いできるようなことじゃねーんだよっ。


「……唯、バシッと決めろ」

「バシッと……?」

「エロエロ展開に持ち込め……!」

「ばっ……!!」


再度耳打ちしてきた的場の頭をバシッと叩く。
バカっ! 的場のアホっ!


そ、そりゃあオレだって、男だ!
下心のひとつやふたつ……みっつ、よっつ……。
とにかく、ある!
でも……それを実際に笹川に頼むなんて、そんなの……!!!


「ゆいた・・・。こほん。……ま、負けは負けだし、できる範囲で聞いてあげるから。なんでも言って?」


それから、どうやら立ち直ったらしい笹川が、にこりと笑って言った。
……笹川って、たまにオレを呼ぶときに「ゆいた」って言うんだよなぁ……。なんだろう?「おいお前!」みたいな呼びかけ? ……まさか、「唯」ってオレの名前を呼ぼうとしてるわけねーし……。


「ん、と・・・。えーっと……」


バシッと決めたいのに、中々言葉が見つからない。
「オレと付き合え」とか言ったらカッコいいのかな……? こんなときA組の柴崎ならなんて言うんだろう……? アイツすげえ男っぽいから、男らしく決めるんだろうな……。


「失礼。……なんだこの雰囲気は」


オレの「命令」待ちで、なぜかクラス中が異様なムードに包まれる。
そんな空気を壊したのは、突然教室に入ってきたある声だった。


「あ、雪平く…………」

「あずみが忘れ物をしたというから、取りに来たんだ。……ほら、あずみ。どこだ?」

「机の、横・・・」


声をかけようとした大澤も、目の前でオレの言葉を待つ笹川も、オレに余計なことを囁く的場も、オレがなにを言い出すかはらはらしている委員長も、もちろんオレも……つーか、クラス全員が、雪平を見て固まった。
雪平っつーか……その背におぶわれている雪村っつーか……白いワンピースの上に、おそらく雪平のであろうブレザーがかけられてる事実っつーか……雪村がちょっと発した声が掠れてたことっつーか……。
まあ、いわゆる……その……っ。


「……あずみは、どうしたの?」

「学園祭、頑張りすぎたらしいな」


誰しもが気になって聞けなかったことを遠慮がちに聞いた笹川に、雪平はしれっと言ってのける。
頑張りすぎたのはお前だろ……!
……にしても、珍しいな。


「……その状態のあずみをここに連れてくるなんて、珍しいね・・・」


オレが思った疑問を、大澤が掬い上げるようにして言った。
……確かに。
雪平とは全然話したことねえけど、雪村を溺愛してるのは有名な話で……。
こんな姿を見せるくらいなら、忘れ物なんか後にして、そのまま直帰してもおかしくねえのに。


「あずみが、クラスに謝らないと気がすまないと言うからな。このまま黙っては帰れない、だと」

「……み、んな・・・ごめん。売り子、全然できな、くて……」


うわわっ!
その声で言うのはまずいと思うんだけど!!
なにしてたのかなんて、言わなくたって分かりきってる。
現に、雪平は青筋立ってるし……!


「だ、大丈夫だから早く帰りな!」

「頑張ってくれたから平気だよっ」

「忘れ物持って帰って、ゆっくり休んで……!」


クラスも同じ思いなんだろう。
みんな、口々に「大丈夫だよ」と言葉にする。それを聞いた雪村は、ほっとしたように笑って「ありがとう」と言った。


「忘れ物、持ったか?」

「ん。紳のお弁当箱……」

「……忘れ物って、それか」


呆れたように笑った雪平は、雪村を抱え直すと「悪かったな」と言って教室を出た。


……なんつーか・・・。さすがに、オープンすぎると思うんだけど……。





「……で?」

「……あっ!」


みんなで雪平と雪村の後姿を追っていると、ふいに大澤が口を開いた。
……忘れてた! 笹川への、命令!!


「そろそろ決めちゃいなよ」

「行け、唯!」


大澤と的場の援護射撃。
どうしよう、どうしよう・・・!


「……生田。わたし、なにすればいいの?」

「あっ・・・、…………じゃ、じゃあ・・・」


……思いつかねえ!
…………あー、もうっ!!!


下心? 告白?
彼女にしてもらうこと……!?
彼女……?
彼女って何だよ!? 分かんねえ!
彼氏・・・彼女……?
雪平? ……雪村?








「……べ、弁当作ってっ!!!」








――発した言葉に一番驚いたのは、ほかの誰でもない。
……オレだったと、思う。






×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -