気分はハムレット
「では、うちのクラスは『コスプレ喫茶』で決めたいと思います」
教卓の前に立つ委員長が、にこりと笑っていった。 ……しめしめ。 昨日委員長のノートに、こっそりコスプレ喫茶のチラシを挟んだかいはありましたね。
3年のクラスは、驚くほどかわいこちゃんだらけだった。 3年間同じクラスだった天使、あずみはもちろん、3年の五大美女の1人、大澤奈緒。 この子、「かわいい系」ではないんだけど……。 うん!やっぱり美人さんだね!! キレかわっ!!
……正直、マドンナ奈緒たんにはもっと誠実な人がいいと思った。 だって、奈緒が苦しい思いをしているの、見てたから。 篠崎に対して、「てめえち○こ切り取ってでこにはっつけてやろうか」とか、物騒なことも思った。
でもまあ、篠崎はきちんと奈緒に向き合ったし。 奈緒は、すっごく幸せそうだし。 お姉さん、許しちゃうよ!
……話が脱線するのは、わたしの悪いところですね。
とにかく、うちのクラスには学校で認められた美女5人のうち、3人がいる。 (客観的にね!「なんだこのナルシス子は」とか思わないで!!)
そんでもって、それ以外もレベルがたかーいたかい。 十人十色、いろんなタイプの美少女がそろってるんですようふふ。
それで、ね? ありきたりに、メイド喫茶なんてもったいないでしょ? だって、いろんなタイプの美人さんがいるんだから、いろんなタイプの服装を着たらいいじゃない。 だってお姉さんそれが見たいんだもの!!
そして、わたしは今死ぬほど迷っていた。 もちろん、クラスも迷っている。
――2つの、衣装で。
「えーっと、大澤さんは婦人警官、笹川さんは女医さんと、主要なところは決まったわけですが……」
クラス中が、黒板に注目する。 ……奈緒は、「ふじんけいかん・・・」と頬を赤らめているけど。……萌えっ!
「……猫耳メイドと、天使コス」
委員長が、ぽつんと呟く。 ……うーん、悩みどころ。
ふと隣を見ると、今何を決めようとしているのか分かっていないであろうあずみが、ぽやーんと黒板を見ていた。 あんたの衣装だよ!あんたの衣装!!
「……セオリーで言ったら天使だろうな。だって通り名のまんまだし。でも猫耳も捨てがたい!!」
「……千夏・・・?」
「……どうしたの、あずみ?」
「ぶつぶつ、言ってなかった?」
「え?言ってないけど・・・」
「じゃあ、聞き間違いかぁ・・・」
どうやら、ぶつぶつと口に出していたらしい。 危ない危ない。
「……猫耳・・・天使……」
生きるべきか死ぬべきか……って、ハムレットじゃないけど、それほどまでに難しい問題だ。 猫耳・・・天使……。
猫耳天使!!! くっつけちゃえばいいじゃん!こうなったらさあっ!!
でも・・・メイド服……。 主要な女子はもう衣装決まってるし……あとは、料理得意で裏方向きな子ばっかり。 うーん・・・うーん……。
「うわっ!!」
思案していると、教室の真ん中で騒動が起こった。 ……生田 唯(いくた・ゆい)。 彼が、寝ぼけて椅子から落っこちたらしい。
生田は、どっかの外国の血がまざっているとかで、ちょっと色の抜けたブロンドヘアと、青みがかった瞳をもつ、美少年。 まじで、こいつ女だったらわたし五大〜には入れてないんだろうなってほどの美少年。 身長は160センチをちょっと越したくらいで、カテゴリでいうと「強気天然美少年」という、なんともおいしい属性の美少年。 正直、男として見たことはないけど、かわいこちゃん愛好会(部員一名)のわたしからすると、垂涎ものの美少年。
――そのとき。 カチ、カチ、と頭の中の歯車がぴったんこした。 ぴったんこやぁっ!!
「……委員長。・・・早く、決めましょう?別に興味はないけど……。あずみは、天使でいいんじゃない?」
そうと決まれば、促すしかない。 いつもの笑顔を張りつけて、「どうでもいいけど」と前おいてから、発言する。
「え、でも……猫耳も捨てがたいって意見が出てて……」
「じゃあ、猫耳つけちゃえばいいじゃない。……ね?あずみ」
「へ?・・・うーん、千夏が言うなら、あたしはなんでも……」
あずみが頷くと、委員長をはじめ、クラス中が目を輝かせた。 ……わたし?わたしは、いつも通りのおかんスマイルです。
「あ、でも……メイド服・・・」
でも、と言って、委員長が俯く。 ……いないのよね、いないのよ。 女の子の人数が、足りないのよねえ?
「仕方ない、今回メイド服はお蔵入」
「っていうか、男子はコスプレしないの?女子ばっかりって、不公平だと思うんだけど……。男子、執事服だけなんでしょ?」
委員長の「お蔵入りにしようか」を食い気味に発言すると、女子が「そうだよっ!」と色めきたった。
「うちらばっか恥ずかしい思いすんの、いやだ!」「男子もコスプレしろ!」「メイド服、着ればいいじゃんっ!!」などなど……。 欲していた言葉が飛び交う。
団結力のある、すてきなクラスですこと……。
……そして、こういう流れになった以上、メイド服を着るのは……彼に、決まりでしょう?
「生田!」 「お前しかいねえっ!!」 「オレたちが着るとかありえねえだろ!?」 「お前が引き受けなかったら、女子もやらねえって言ってんだよ!!」
「生田なら可愛いよー」 「ほらほら、学園祭って、そういうイベントじゃん?」 「絶対似合うから、大丈夫だって!」 「生田は白いし、絶対可愛い!!」
男子、女子共に教室の中心に詰め寄る。 青ざめる生田。 鼻息の荒い女子軍団と、「オレが着るのだけはいやだ!」と悲壮感漂う男共。
「や、やだ・・・!お、オレは……オレは、男なんだあああああああっっっ!!!」
絶叫する彼の言葉を無視して、わーきゃー騒ぐクラスメイト。 ごめーんね。唯たん☆
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