だって可愛いんだもんっ
わたし、笹川千夏は……ちょっと、変わった趣向を持っています。
変わってない、かな? だって、女の子だったら、当然の感情だと思うし……。 ……ただ、それがちょっと行き過ぎてるだけで。
「お姉さま」
当初のわたしの通り名。 ばかみたいなうちの学校には、ばかみたいな美少女選抜選挙がある。 それが、通称五大美女。
ギリギリそれにランクインしているわたしは(うるせーよ、分かってんだよギリギリなんてことは)、黒髪ボブヘアのしっかり者。……たぶん、そんなイメージ。 あとは、ちょーっと遊んじゃってるイメージかな? ……あのね、別に普通だから。 ただ、ほかの五大美女が貞操固いの。
あずみは雪平くん来るまで「ほえ?」とか素で言っちゃうくらいのぼけぼけさんで、自分が好かれていることなんて考えてもいなくて……。だってどこからどうみても両思いの比呂さんと、ずっとういういしてたんだよ?結局、雪平くんと結ばれたけど。 奈緒は幼馴染のチャラ男大好きで、ほかの人を恋愛対象になんかしたことないみたいだし。 女王様は、冷たい顔で周囲を見下してたし。……最近のキャラ崩壊乙女モード全開についてはお察しください。 生徒会長のレイカ様はいいとこの娘さんで、婚約者がいるって話しだし。
……と、まあその辺は置いておいて。
五大美女に与えられる通り名は、基本覆らない。 でも……わたしは、変わった。
「おかん」、に。
ご明察。 あずみの世話焼きまくってたら、おかん扱いされてたんだよねー。 だってあの子、放っておけないし……ぽやぽやしてるから、見てないとなにするかわかんないし。
……そしてなにより、
かわいいんだも―――――――――んっっっっ!!!!
**********
高校の、入学式。 クラス分けの張り紙を見ながら、わたしは不思議なものを目撃した。
……栗色の柔らかそうなものが、わたしのとなりでぴょこぴょこ跳ねているのを。
おそらく、150センチに到達していないであろう身長。 そして、前にはばむのは体育会系の肩幅の広い男。
……見えないのか。
「……ちょっと、」
そして、どうやら人見知りをして「どいて」と言えないであろう栗色のほわほわに変わって、前に立つ男子生徒に声をかけた。
「ん?……うわっ、美人・・・」
男子生徒は、振り向いた瞬間にそう呟く。 ……あのね、悪い気はしないけど、どいてあげてくれるかな?
「終わったら、避けてあげて?後ろの子、見えないみたいだし」
そう言って笑いかけると、男子生徒は「悪い」と言って後ろを振り向いた。 ……そして、なぜか固まった。
「…………っっ、!!」
それから、顔を赤くして――いいから、どけよ。
「見えてないんだってば。どいてあげてよ」
「う、わっ・・・!わ、悪い!!」
ちょっときつめに言うと、男子生徒は頭を下げてぴゃーっと逃げ出した。 ……挙動不審。 変質者の気でもあるんじゃない?
「……あの、」
男子生徒が走っていったほうを眺めていると、右下から高めの声がした。
「はい・・・、……!」
「あのっ・・・ありがと、ございます」
……ごめんなさい、男子生徒くん。挙動不審なんて言って。 これは、固まるわ。
ふわふわ栗毛に、真っ白な肌。 化粧をしていないようなのになぜかほんのり色づく頬。 色素の薄い、ちょっとたれ目のまあるいおめめ。 ぷっくりとした唇は、色づいていておいしそう。
天使かこの子は!! まっじでかわいいっっ!!
にこりと笑う天使を、抱きしめたいという衝動にかられる。 ……いやいや待て待て、変質者だそれじゃあ。
危ないところで衝動を押し込めて、天使に向かって笑いかける。 ……やっべえキューティクル。天使のわっかが見えます隊長。 絶対いいにおいするってこの子!
な で ま わ し た い !
「……えっと、あたし、雪村あずみですっ」
あずみたんっ!! そんなまぶしい笑顔振り向かないでっ! きゅんきゅんする!なにこの気持ち!! まさか……恋!?
「さ、笹川千夏です」
「千夏ちゃん」
ぽわーっと、ふにゃーりと、あずみたんが微笑む。 やっべー天使の微笑だろこれ!!
「千夏ちゃん、どこのクラス?」
「あーっと・・・1−Aみたい」
平静を装って、いつもの笑顔を顔に貼り付ける。 すると、あずみたんはぱああっと顔を輝かせた。
「あた、あたしもAだったっ!よろしくねっ!!あのね、あずみでいいよう?」
いいよう?じゃねーよ! かわいいなこんちくしょーっ!!!
「うん。早速仲良くなれて嬉しい。わたしも、千夏でいいよ」
「・・・千夏!」
嬉しそうです、隊長!! 絶対この子甘いもの好きだよ!! 今度お姉さんがパフェご馳走してあげるからねっ!!
えへへーと笑うあずみに癒されながら、わたしは鼻息荒くそんなことを考えていた。
**********
――そして。
「あずみ!手洗った!?」
「うえっ?・・・洗ったよう」
「よし!じゃあ、冷める前にお食べ!……ちゃんとふーふーするんだよ?やけどするから」
「うんっ!」
とか、
「あずみ、転んだの・・・?」
「……っ、うん・・・」
「まったくねー。ハードルなんて危ない競技体育でやんなよくそが。……泣かなかった?」
「だ、だいじょうぶだよう!」
「いいんだよ?……痛いときは、泣きな?」
「うわーんっ!ちかぁ・・・」
とか、
「あずみちゃーん、ちょっと今から付き合って、」
「おいゴリラ。てめえ誰の許可得てあずみ連れ出してんだこら」
「げっ!おかんっ!?」
とか、
「千夏!あのねあのね・・・紳が、帰ってきたんだよう!」
「……どうも」
「あ、はじめまして。あずみの友人の笹川千夏です。……あずみが待ってたのって、あなたですよね?」 (やべえなにこの美形!つかあずみとお似合いすぎる!!ちょっとドSっぽいのも高ポイント!!なにこれあずみ泣かされちゃってんの!?愛あるSなら認めまーすっ♪)
とか……。 あれ?最後のはちょっと違うか。
とにかく、あずみに余計な世話焼きまくってたら、いつの間にかおかんになってました!
……たぶん。 笹川千夏の本心は、学内の誰も知らない。
「可愛い子、大好きなんだお☆男とか、目じゃねえ(はぁと)」
あ、ちなみに男性なら、爽やかスポーツマンタイプが好きです。 ちょっと腹黒くらいだとなおいいです♪ キャラ的にとってもおいし(ry
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