わん★わんだふる | ナノ



萌えによる発火現象


「千夏って、生田くんのこと好きだよねー」


……ん?


放課後、あずみの家。
あずみのエプロン姿に萌え萌えしていたわたしは、紡がれた言葉に思わず固まってしまう。


わたしが、唯たんを好き?
……いやいや、まあ好きだけどね。


「好きだけど……」

「だよね! だっておいしいお弁当作るためにわざわざ練習するなんて、好きじゃなきゃできないもんね?」

「……っ! あずみのほうが好きだよーっっ!!」


フライ返し片手にえへっと笑うあずみが可愛くて可愛くて……。ぎゅうっと抱きしめながら、あずみの頭をがしがしと撫でる。


でも……あれ?
言われてみると……。
わたしがやってるのって、端から見ると、恋する乙女の行動じゃん。


「しょっぱいって言うから、○○くんにおいしいって言ってもらえるように、練習するの(はぁと)」……的な?
でも、相手が唯たんだからなー。そんな感じにならないんだけど……。


「……! 千夏! しょっぱくないよっ!!」


なんだかモヤモヤ考えながらも、あずみに言われた分量で、言われたとおりに腕を動かしながら出汁巻き卵を完成させる。
……そうか。四角いフライパンがあると楽なのね、なんて思っていたら、味見をしたあずみがパアッと顔を輝かせた。


「やったねっ! これで、生田くんにおいしいって言ってもらえるよう」

「いや・・・その言い方は、なんか……」


なんか……違う気がするんだけどな・・・。


とにもかくにも、わたしはあずみいわく「しょっぱくない出汁巻き卵」を完成させた。








**********


どきん、どきん・・・


心臓が、やたらめったら音を立てる。
いやいや緊張すんなわたし。大丈夫に決まってんだろ。
っていうか、緊張するのはおかしいぞ。


ところ変わって、場所は中庭。
昨日と同じように、中庭の片隅でお弁当を広げる。
付け焼き刃で練習できたのは、出汁巻き卵だけ。ということで、今日のお弁当はおにぎり(これも、塩の量を決められた)と出汁巻き卵、それから調味料があまり必要ないフライ系のみ。
あずみに口酸っぱく言われた言いつけを守って作った出汁巻き卵は、我ながらなかなかうまく巻けた。ちょっと味が薄いような気もしたけど……。自分の味覚より、あずみのレシピを信じることにしました。
「千夏は、料理下手じゃないよう。ちょっと味覚がおかしいだけで」と、にこにこ笑顔であずみに言われたからね。
あの子たまーに毒吐くよね。可愛いからいいんだけどさ。


「め、召し上がれ」

「ありがと!」


どもっちまったぜ。なに緊張してんだ、わたし。
昨日のように、嬉しそうにお弁当箱を受け取った唯たんは、にこにこと笑いながらお弁当箱を開けた。
そして、千夏様渾身の出し巻き卵に箸をつける。
うわー、緊張する! なんだろ、これ。手汗がやばいんだけど!!


「……、・・・あ」


卵焼きを口に含んで、もぐもぐと口を動かした唯たん。
どうなんだよおい、と思って横顔を見つめていると、唯たんは口元に手を当てて、くるりとわたしの方に向き直った。


「ど、どう・・・?」

「おいしい・・・」


はにかむように、唯たんが笑う。
う、わ・・・!


「そ、そう・・・。よかった」


はにかんだ唯たんの顔は、可愛くて可愛くて……。
普段なら、穴があくくらい見つめるところだけど……ダメだ。
なんだか恥ずかしくて、思わず視線を反らす。


「さ、笹川・・・?」

「な、なに? どうしたの?」


そんな、いつもと違うわたしを不審に思ったんだろう。唯たんが、不安そうにわたしの顔を覗き込んでくる。
うわー、うわーっ!
可愛いけど、可愛いんだけど!!
見つめないで! 今の私を見ないでー!!


「あの、味付け変えたのか・・・?」

「え? あー、うん。あずみに習ったの」

「そ、そうなんだ!」

「しょっぱかったでしょ? おいしくなかったと思うし……」


昨日、聞いちゃったし……ということは言わずに、ちょっと弱気な発言をしてみる。
すると、唯たんは目を開いて、ぶんぶんと首を振った。


「そ、そんなことねーよ!」

「へ? ……いや、気使わなくていいよ?」

「ちがっ! た、確かにしょっぱいけど……でも、でも・・・」

「どうしたの?」

「おいしくないわけ、なくて。……オレは、」


かたんと箸を置いて、唯たんがまっすぐわたしを見てくる。
どうした、この子。というか、どうしたわたし。
なんでこんなに、緊張してるの!?


「オレは……笹川と食ってれば、おいしいから」

「……はい?」

「ちょっとくらいしょっぱくても、本当においしくて……でも、その・・・」

「……っ、」

「その……わざわざ練習してくれたの・・・なんかすげえ嬉しいんだ。……ありがとな」


最後にふにゃりと笑った唯たんは、恥ずかしそうに俯いた。


……わたしは、というと。


ぶわり、と体が熱を持つ。
目の前で照れてうつむいている唯たんは、それはそれはかわいくて……。
かわいこちゃん愛好家にとっては、近年まれに見る(?)ほどの萌え製造マシーン。


だから、


こんなに熱いのは、おかしい。
いやいやいや。なにわたし!! 絶対顔赤いでしょ。
おかしい、おかしいってば……!!


萌えすぎたんだ。そういうことにしておこう。
照れてる唯たんが可愛すぎた。だって、なんかはにかんでるし?


まったく、凶悪だぜ。
あずみですら引き起こせなかった「萌えすぎによる体温上昇攻撃」(たった今命名)を仕掛けてくるんだから。





「すごいよ生田。あのあずみですら成し得なかったことを・・・」

「え、な・・・なにを?」

「こっちの話」


あー、顔あっつい。






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