よいわけなかった
「笹川との弁当、どうだった?」
「た、楽しかった!」
「おー、唯よかったじゃん」
教室にいたのは、萌えっ子唯たんと愉快な仲間たち……委員長と、的場だった。 どうやら、今日の昼食の話をしているらしい。 教室に入るに入れず、わたしは「家政婦は見た」的ポーズで立ち聞きをする形になってしまった。
それより、聞きました!? 唯たん、今日の昼食楽しかったって!! やだー、もう! お姉さんも、とっても楽しかったぞ☆
「そ、そっか・・・」
「……うん!」
唯たんの「楽しかった」発言に、委員長はなぜかうろたえたように見えた。でも、委員長の様子はおかまいなしに、唯たんは大きくうなずく。
ひゃー、萌え☆
「でもさあ、お前よく『弁当作って』なんて言ったな? 雪村ならまだしも……笹川の料理、すげえじゃん?」
「オレも、そう思った」
……おーい。 萌えモードをつき落とすような、的場の発言に、ガックリくる。 それに賛同するようにうなずく委員長にも、殺意が芽生えてしまった。 ……唯たん、食べてくれたし。
「今日の弁当、どうだった? 上達してた?」
「う、え・・・」
「しょっぱくなかった?」
的場と委員長に詰め寄られて、唯たんは焦ったような顔を見せる。 きょろきょろと目を動かして、こくんと眉唾を飲んだようだ。
……そして、
「……いや、まあ・・・。しょっぱかったけど……」
……はい?
え? お弁当、しょっぱかったの? 「おいしくない感じ?」と聞いたら、「おいしい」って言ってくれたのに……。
唯たん、もしかして無理して食べてくれた? ……っていうかそもそも、前につくったホットケーキも、クラスの誰も手をつけなかったのに唯たんだけ食べてくれたんだっけ……。 もしかしなくても、あれも、なのかな……?
「だよなー。お前この間のホットケーキも無理して食ってたし……」
「あれは……ちょっと、尊敬した」
「いや……。だって……」
……やっぱり、あのときも無理して食べてくれたらしい。
マジかよ、というショックで、わたしはその場を離れた。 携帯とか、取りに入ることもできないし。
唯たんは、どうやらわたしの弁当&ホットケーキを無理して食べてくれたらしい。 よく考えれば分かること。おいしかったら、むせないよね。 ホットケーキのときも、今日も、唯たんは口に含んだ瞬間小さくむせていた。
「しょっぱかった」という事実が分かった瞬間に沸き上がったのは、悲しさじゃなかった。 「唯たん、ひどいわっ! 嘘をついてたのね!」なんて気持ちでも、もちろんない。 沸き上がってきたのは、自分が料理できないことへのふがいなさと、おそらく食べることが大好きな唯たんに、食事中苦しい思いをさせたショックだ。
まず、周知の事実として、わたしは料理が下手。 でも、唯たんは食べたいと言ってくれる。
……だとしたら、わたしがとるべき道は? 「もう料理なんかしない!」って匙を投げて、唯たんに弁当は作らないと言う? それとも、「なんでおいしいなんて嘘をついたの!」って、唯たんに詰め寄る?
……まっさか。 負けず嫌いの千夏さまは、そんな泣き寝入りはしません。
「見てろよ……」
わたしは決意を胸に、理科室への道を走った。 取るべき道は、ただひとつ。
「あずみ!」
「あー、千夏! 早かったね。携帯あった?」
「どうしたの? そんな慌てて……」
ろうかを歩いているあずみの手を、バッと取る。 わたしがぜえぜえと息をしていることに疑問を抱いたらしい奈緒が、訝しげに覗きこんできたけど……。 説明は、後!
わたしは息を吸い込んで、あずみの目をまっすぐ見据えた。
「あずみ・・・わたしに、料理教えて!!!」
「「……えっ!?」」
わたしが言葉を発した瞬間、あずみと奈緒は目を丸くして、見事なユニゾンを見せた。
……見てろよ、唯たん。 絶対、本心からおいしいって言わせてやるんだからなっ!!!
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「……でも、笹川がわざわざ弁当を作ってくれるのは嬉しいし、昼休みもすげえ楽しかったから……。ちょっとくらいしょっぱくても、なんかおいしく感じちゃうんだよな」
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