Let's 採点 LOVE | ナノ


(01)


お隣さんである、奈緒の家。
オレの家とは違って、整理されている奈緒の家の玄関。上がった瞬間、オレは靴を脱ごうとしている奈緒の腕を掴んだ。


「・・・い、?」

「……奈緒、オレ・・・」


「え?」と首を傾げる奈緒の手をぎゅって握って、奈緒の目をまっすぐに見た。





「奈緒が好き。・・・好き」

「い、ち・・・?」


奈緒の目が、大きく見開かれる。
玄関先でする話じゃない。……でも、オレの口は止まらない。


「オレ、奈緒が大事なんだ。離れたく、ないよ・・・」

「……うん、」

「好き、」

「壱・・・」


焦りすぎて、TPOもくそもない告白をするオレ。
でも、奈緒の目は、そんなオレを責めていなくて……。
ふわり、と笑った奈緒は、オレの手を解くと、逆に、手を握り返してきた。
それから、「靴、脱いで」と言って、オレの腕を引っ張る。


学校から、ここまで我慢したのに……。
堪え性ないな、オレ。


言いたいことは山ほどあるけど、奈緒に倣って靴を脱いだ。
奈緒に着いて、階段を上がって、奈緒の部屋に行く。


……4日前に、奈緒とお酒飲んだ、部屋。


「……お茶、」


オレの手を解いて、奈緒の部屋にあるミニ冷蔵庫に手を伸ばした奈緒。
でも、オレは手を引っ張って、その行動を制した。
……お茶、いらないもん。


「奈緒・・・あのね……」

「壱……」


相変わらず、支離滅裂になにかを言おうとしたオレの唇に指を押し当てて、奈緒が笑った。


「あのね、壱……。まず、あたしの話、聞いてくれる?」

「え……?」

「あたし、壱にいろいろ隠してた。……だから、」

「……うん、」

「逃げてたんだ、あたしも。この関係が、好きだったから」

「奈緒・・・」

「だから、まず……あたしから、話してもいい?言いたいこと、たくさんあるんだよ」


“逃げない”は、オレのセリフだと思ったけど……。
でも、“逃げない”っていうのは、奈緒とか自分の気持ちから目を逸らさないで、向き合うことだって思ったから。
こくん、とうなずいたオレを見て、奈緒は口を開いた。





「壱とあたしって……もう、17年とか18年の付き合いでしょう?」

「うん。誕生日・・・近いしね」


聞いて驚け。
オレと奈緒の誕生日って、2日しか違わないんだよ。
オレのほうが、少しだけお兄さん。


「産まれたときから家が隣同士だったし、一緒に成長してきたから……ほとんど、兄妹みたいに過ごしてきたよね」

「うん」


イベントごとも、何もかも一緒だった。
オレの家のアルバムには、ほとんど奈緒も写ってるし、奈緒のアルバムも同様だと思う。
幼稚園入園、卒園、小学校入学、修学旅行、卒業……。
幼稚園から高校まで、全部一緒のオレたちは、全部の記念写真を一緒に撮っていた。
それに、ね。
オレがはじめて話した言葉って、「ママ」じゃなくて、「なお」だったんだよ。
親同士の会話でたくさん名前が出てたから、自然に覚えちゃったんだってさ。
母ちゃんは、そのときのことを話すたび、複雑そうな顔をする。


「一緒に成長してきて、ね。あたしは・・・すごく、勝手なんだけど、この先もずっと、壱と一緒にいるもんだって思ってたの」

「オ、オレだって、思ってるよ!奈緒と離れるの、想像できないもんっ!!」

「……そう?」


奈緒だけが思ってるわけじゃないのに・・・。
そう思って口を挟むと、奈緒は眉根を下げて、少し寂しそうな顔をした。
……本当に、思ってるのに・・・。


「それで・・・あのね。小学校の頃の話……なんだけど、」


それから、奈緒はおずおずと口を開いた。
……小学校。
この間、酔った奈緒に言われて思い出した……ファーストキスと、結婚の約束のお話し。


「あの・・・壱は、忘れてると思うの。……あたしと、キスしたことないと思ってるみたいだし……。でも、ね」

「…………結婚の、約束?」


おずおずと尋ねると、奈緒は目を丸くした。


「おぼえてる・・・の?」

「……この間まで、忘れてた。最近・・・思い出して……」


そう言うと、奈緒はちょっと息を呑んだ。


「……えっと、じゃあ・・・キスしたことも、覚えてる?」

「覚えてる。……それから、『ボクがなおなおをお嫁さんにする』って、言ったんだよね」

「……そ、そっか・・・」


ごめん。
本当は、思い出したのは奈緒に言われてなんだ。
オレ……本当に、最低だ。


「えっと・・・それで、ね。あのときのことって、壱にとってはなんでもない思い出だと思う」

「そんなこと、」

「なく、ないよ。……壱が悪いんじゃない。あんな約束引きずって、満たされてたあたしがバカなんだよ」


ふふって、奈緒が自虐的に笑った。


「勝手に、ね。時期が来たら、壱とちゃんとお付き合いして、もう一度キスをして……それから、はじめての行為も、壱とするんだろうなって……思ってたんだ」

「…………っ、奈緒・・・」

「あ、違うの。そう思ってたって言うか……なんとなくよ、なんとなーく。あたしが勝手に考えてたことだから……」


手をぶんぶん振って、奈緒が困ったみたいに笑う。
……でも、そっか。








オレは、奈緒を“女の子”として見てなくて……。
キスも、セックスも、あまり深く考えていなかった。
だから……正直、誰とシても一緒だと思ってたんだ。





奈緒とヤって、その考えって間違いだって分かったけど……。




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