Let's 採点 LOVE | ナノ


(02)


オレは、はじめてシた子の顔も覚えていない。
確か、友達に誘われて行った合コンで、お酒飲んで……。
その場のノリで、シた。
正直、記憶もほとんどない。


でも、1度ヤったら貞操観念がガクンって落っこちた。
誘われたら、「別にいいかなー」でヤりまくってた。


それをすぐそばで見ていた奈緒が、何を思っていたのかも知らないで……。


ヘラヘラして、女の子を抱いた。
確か、奈緒と同じクラスだった子にも手を出したと思う。
……今なら・・・。今なら、絶対にそんなことしないのに……。


オレは、奈緒が教生に腕捕まれてたってだけで、イライラした。
奈緒を誘うなって、ぶん殴ってやりたくなった。
……最悪だ。
奈緒は、その何倍も、いやな思いをしていたのに。





「あたしは……」


思考に入っていたオレは、奈緒の言葉でハッと我に返った。
目の前の奈緒は、相変わらずちょっと寂しそうに笑っていて……。
なんだか、遠くに言ってしまうような気がして、泣きたくなった。


「はじめて、壱が……女の子と遊びまわってるって聞いたとき……ショックだった」

「ご、め・・・」


謝ると、奈緒はぶんっと首を横に振った。


「壱は悪くない。あたしたちは、恋人同士でも、なんでもないんだから・・・」

「……う、・・・」


でも、と、奈緒は言葉を続ける。


「壱の気持ちは、分からない。でも、幼馴染として、大事に思ってくれてることは分かる。……さっきの“好き”も・・・。壱が、あたしを嫌いだなんて、万に一つも思いたくない。あたしも、壱が大好きだよ」


“好き”の意味が違う。
オレの“好き”は……。


「いっそのこと、嫌いになれたら楽なのかな?・・・でも、あたしは壱のこと、絶対に嫌いにはならない」


オレの目をまっすぐに見て、奈緒が言い切った。


「“採点”」


それから、と一呼吸ついて、奈緒が言葉を発した。
……“採点”。
オレと奈緒がしている採点ゲームは……ある意味、すべての始まりだった。


肌を重ねることの重要性が分かった。
奈緒が、女の子だったんだってことに気がついた。
オレの、黒い感情が・・・浮き彫りになった。


「“採点”・・・ね。あたし、壱との賭けに出たの」

「賭け・・・?」


泣きそうになりながら問い返すと、奈緒はこくんと頷いた。


「……ごめんね。壱のこと、50点なんて言って。あれ・・・正確に言うと、違うんだ」


謝りながら、奈緒が頭を下げる。
オレは、首をかしげた。


「壱が50点なんじゃないの。あたしと・・・壱の関係なの」

「かん、けい?」

「うん。……あたしはね、壱。壱との今の関係を、壊そうとした。壊して……新しいものに、変えようとした」

「こわ、す?新しい・・・?」

「新しい、関係。今の、ぬるま湯みたいな幼馴染って関係を、壊そうとした。……もちろん、今の関係も、あたしは大好きだよ。隣の家に壱がいて、窓伝いに部屋を行き来して……。ゲームをしたり、漫画を交換したり、テスト前に2人で焦りまくったりって関係も・・・大好きだったよ」


ふにゃり、と奈緒が笑った。
……たぶん、17年間を、振り返ってるんだと思う。
オレも……そうだから。


「でも・・・でも、ね。それが、辛かった。部活をしていない壱が、夜遅く帰ってくるのも、女物の香水のにおいをまとってくるのも……、涙出てくるくらい、辛くて……」

「ごめ、・・・ごめん……」


きゅっと唇を噛んで、涙を堪えているであろう奈緒の手を、ぎゅっと握る。
……ごめんなさい、ごめん。
許されないと思う。奈緒の気持ち、考えてなかった。
昔のオレ、ぶっとばしてやりたい。目を覚ませって、蹴り飛ばしたい。


「だから・・・壱が冗談半分であたしを抱こうとしたとき、チャンスだと思った」

「……う、」


あぁ、最悪だ。
なんでオレは……あのとき、あんな軽く奈緒を誘ったんだろう。
あれじゃあ、ただの遊び相手みたいじゃんか。
……誘われるんじゃなくて、誘ったのは・・・そういえばはじめてだったけど・・・。
そんなの、言い訳にもならない。


「このまま・・・壱があたしだけを見てくれたら……もう一度、壱だけを信じられるようになったら、勝ち」

「・・・そ、れが……100点?」

「うん」


泣きそうな顔をしながら、奈緒は無理やり口角を上げて、笑ってるみたいな顔をした。


「……で、ね。壱が・・・それでも、ほかの子に手を出したら……負け」

「……0点」

「・・・ん。結局……あたしは、負けたんだよ」


二の句が告げなくなっているオレを見て、奈緒は言葉を続ける。


「負けたら・・・。0点になったら、終わりにしようと思ってた。もともと、壱との幼なじみの関係には戻らないつもりで採点をもちかけた。……ごめんね、壱。あたしは勝手に、壱との関係を精算しようと思った」

「ごめ、・・・なさい……」

「謝らないで・・・。謝るのは、あたしのほうだよ。壱は、このままの幼馴染の関係を望んでたんだもん。勝手に、それを壊したのはあたし。この結果も、自分が招いたことだと思ってる」

「違う・・・オレ……ごめん、」

「……謝るなっ。一応、このやろう、くらいには思ってるんだからね!!」


ふふっと奈緒が笑う。


「でもね、千夏に言われて、思った。……壱に、なにも言わないまま関係をなくすのは、間違ってるって。17年間、楽しいこと、たくさんあった。・・・勝手にさよならするのは、間違いだよね」


ふう、と息を吐いて、奈緒がオレを見た。
奈緒の目には、涙がたまっていて……。
なんで、オレは奈緒を泣かせちゃうんだろう。
幸せにしたいって……幸せに、なってほしいって思ってるのに……。


「ごめん、ね・・・壱。あたしは……一旦、終わらせたい」

「…………っ、」


奈緒の目から、とうとう涙がこぼれた。
でも、奈緒は空いている手で、すぐにその涙を拭う。


「終わらせて……別の世界を歩きたい。それで……これはあたしの我がままなんだけど、」


奈緒の目からは、涙がぼろぼろこぼれていた。
拭っても拭ってもこぼれる涙に、奈緒は苦笑いをして見せた。


「我がままなんだけど……もし、壱があたしを好いてくれているなら……将来、また茶飲み友達にでもなろう?」


茶飲み・・・?


「お互い、好きな人ができて……あたしの感情が、幼馴染として壱を見られるくらいまで落ち着いたら……そしたら、お茶でもしようよ。お互いの相手の愚痴とか、子どもの愚痴とか言ったり……」




お互い、好きな人・・・?
幼馴染・・・。
お互いの、相手・・・?
子どもの……。


奈緒が発する言葉を聞いて、目の前が真っ暗になった。
それから、また心が黒く歪む。


お互いの、子ども?
それは……奈緒が、ほかに好きな人を作って、セックスして、オレとのじゃない子どもを産むってこと?
それで、奈緒の旦那の愚痴を、オレが聞くってこと……?






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