首輪とか付ける?
「・・・ゆ、ず……?あなた、学校は?」
「み、美姫さん・・・心配で……」
そう言ったゆずは、本当に心配そうにあたしを見ていた。 ……ゆず・・・。
「ほらほら。美姫ちゃんのお部屋で、お話しなさいな」
パンパンと手を叩いて、ママが言う。 お、お話しって・・・。
ゆっくりと、ゆずを見る。 追いかけてきてくれたのか、額には汗が伝っていた。
……汗!!!
「お、お化粧!!」
ばっと、顔を隠す。 さっき走ったから・・・お化粧、取れちゃった!!
「お化粧って・・・。美姫ちゃん、ほとんどしてないじゃない」
「そ、そういう問題じゃないわ!!」
確かに、ほとんどしていないけれど……。 でも、ゆずの前では、完ぺきでいたいじゃない!
「や、やだっ!ちょっとゆず、あっち行って!」
「え・・・で、でも……」
「ふわふわとお話すればいいじゃない!」
「ふわ・・・?」
「可愛いもの同士、楽しくやればいいじゃない!!」
顔を隠しながら、そう言う。 すると、ゆずはうーんと考え込んだ。
「ふわふわ・・・雪村?」
「ゆ、雪村!?」
あのふわふわ、雪村って言うのね!?
「そ、その雪村さんと、楽しくしてればいいじゃない!」
「え?雪村は・・・紳の……」
「可愛い子がいいでしょう?あたしなんか、わがままだし、性格悪いし、いいところなんて顔が美人なことくらいじゃない!」
……言ってて、悲しくなってきた……。 どうせ、顔だけが取りえよ!
ゆずを睨むように見ていると、ゆずがくっと眉を寄せた。 ……怒らせちゃった? あたしが、わがままだから……? ……嫌われちゃうのかしら?
誰に、何を思われてもいいと思ってた。 でも……でも、ゆずには嫌われたくない。 ゆずにだけは……可愛いと、思って欲しい。
「……美姫さん、」
そう思って、顔を隠したまま俯いていると、つかつかとゆずがこちらに向かってくるのが見えた。 ……いや。やっぱり、嫌われた?
あたしの目の前までやってきたゆずが、ふっと、あたしの両手首を掴む。 そして、顔を隠すあたしの両手を、ばっと開いた。 視界が開けて、目の前にゆずの顔が見える。
「化粧なんかなくたって・・・美姫さんは、可愛い。性格だって、オレは好き」
「…………っっ!!」
言われた瞬間、顔が熱くなった。 心臓がどくんって音を立てて、熱いものがこみ上げてくる。
……そして・・・。
「・・・ふっ、」
目の端から、熱いものがこぼれた。 ……涙? 泣くのなんて……いつぶりだろう。
悲しくて、泣いたわけじゃない。 ……ゆずの言葉が、嬉しかったの。たぶん、ね。
でも、ゆずはあたしの涙を見た瞬間、ぎょっとしておろおろしはじめた。 手首から手を離して、慌ててあたしの頭を撫でる。
「ご、ごめん!痛かった、か・・・?」
「・・・ちがっ、」
「泣、かないで・・・くれ。ごめんな?」
「違うの・・・」
おろおろしながらあたしを見るゆずの手を取って、自分の頬に当ててみる。 ……おっきくて……あったかい。
「美姫、さん?」
「あのね・・・あの、ゆず……あたし……」
おずおずと覗き込んでくるゆずに向かって、口を開く。 ……あたし、
「はいはいっ!ここでお話ししなぁいのっ!!」
と、ママが再度手を叩いた。
「美姫ちゃんの部屋、行きなさい。パパが見たら、譲ちゃん殺されちゃうわよぉ?」
ふふふ、と言ったママの言葉に、ゆずがぎょっとした。 あたしは、こくんと頷いて、ゆずの手を引っ張る。 そして、2階にある自分の部屋に向かった。
「可愛くない!?初々しいわよねぇっ!!」
ドアを閉めるとき、ママがメイドさんに熱弁しているのが見えた。
階段を上りながら、思考にふける。
……恋。 ドラマなんかだと、好きすぎてドキドキしたり、彼が、ほかの女の子と話すのを見るだけで嫉妬していたりした。 彼のためにって、少しでも可愛くなろうとして、洋服を買いに行ったり、お化粧品をそろえたり……。 触れたくなったり、ぎゅってされたら嬉しくなったり……。
あたしね、ドラマを見て、ちょっとバカにしていたの。 「ありえない」って。あたしが、そこらの男に、こんな感情抱くわけないでしょう・・・って。 ……でも、でもね。 そういう感情を、恋と呼ぶなら……。
あたしはゆずに恋をしている?
自室のドアを開けて、部屋の中に入る。 次いで、ゆずが遠慮がちに入ってきた。
あたしは、くるりと振り向いて、ゆずの顔をじいっと見た。 ゆずが、ちょっとビックリしたような顔をして、頬を赤く染める。
……ゆずが、好き。 好きすぎて、ちょっとおかしくなるくらい。 ……そっか。そうだったのね!! この感情を、恋と呼ぶなら……すべてに、合点が行くじゃない!!
「ゆずっ!!」
「う、え!?」
目の前のゆずの胸に、飛び込む。 ゆずの首に手を回して、ぎゅうっと抱きしめてみた。
「み、美姫さんっ!?」
「あたし、ゆずのこと好きっ!!」
顔を上げてそう言うと、ゆずがぼんって顔を真っ赤にした。
「恋、してるんだわ、あたし!!ゆずが、好き!」
「…………っっ!!!!!!」
「おかしいと思ってたのよ!ゆずのために、かわいくなりたいと思ってた。ゆずが、ふわふわと話しているのを見て、もやもやしたのっ!」
「美姫、さん・・・」
「恋、しちゃってるみたいなの!!好きよ、ゆず。あたし以外の女の子と、お話ししてほしくない。嫉妬、しちゃうから!」
気持ちを伝えたくて、ゆずの体をぎゅうっと抱きしめる。
「好き、ゆず・・・」
「う、あ……オレも・・・大好き」
真っ赤になったゆずが、あたしの背中に手を回す。 その言葉が嬉しくて、あたしはゆずの胸に頬を摺り寄せた。
「ゆず、あたし、可愛いと思う?」
「……世界一、可愛いと思う」
「じゃあ、ほかの女なんか見ないでね?あたしだけの、ゆずでいてね?」
「……は、はい」
「ごめんなさいね?これからは、ゆずのこともっと大切にする。大好きなの。ぎゅうっとされるのも、キスするのも好き。そばにいてね?ずっと」
「…………っっ!!もう、美姫さん……」
はあっと息をついたゆずが、顔を真っ赤にしたまま、あたしの顔を覗き込んだ。 そして、ちゅっと唇にキスを落としてくれる。
「かわい、すぎんだろ・・・っ!!」
唇を話した後、ゆずが脱力するみたいにあたしを抱きしめてきた。 その言葉も、全身で抱き締めてくるゆずの重みも、はじめて恋を自覚したことも、ゆずが可愛いのも、大切な人が傍にいてくれるのも……全部に幸せを感じる。
「……どこかに行かないか、心配」
ゆずに抱きしめられながらそう呟く。 この幸せが、一生続いてほしい。
そう思って言うと、ゆずがふっと笑った。
「……じゃあ、首輪でもつける、か?」
冗談っぽく、ゆずがそんなことを言う。
……名案かもって思って、思わず頷きかけたのは、内緒の話、ね。
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