(Pink)
※千夏視点
今日は唯が家に遊びに来ています。 つっても、親が1階にいたりするから、いちゃつきモードには入らないけどね。
「うぅ・・・」
「お母さんがごめんねー?」
わたしの部屋にフラフラと入った唯は、すぐにその場に座り込む。 唯がうちに来るのは2度目。 前回、外出しているはずのお母さんが早めに帰ってきて、うっかり唯に遭遇。 初見で「かわいーっ!」と大はしゃぎだったお母さんは、その後「いつ唯ちゃん連れてくるの!」と、唯を大絶賛。 今日も、緊張でカチコチになっている唯をハイテンションで迎え入れ、撫でるわ質問攻めにするわでもう……。 その辺は、わたしみたいに心の中に留めてほしかったよ。
「だ、大丈夫!」
「ほんとう・・・?」
でも、わたしの心配をよそに、唯はガッツポーズをして見せた。 あら、男らしい。
「千夏の母ちゃんと仲良くなれたら嬉しいし!」
「そっか!」
相変わらずかわいいことを言ってくれる唯の頭に手を乗せて、くしゃくしゃっと撫でてみる。 唯は、うれしそうにわたしの手に擦り寄ってきた。 ……くそう。かわいいぜ。
「……唯、ちょっと髪伸びた?」
「そう、かも? 実は、明日切りに行くんだ。前髪もうっとうしくて……」
「確かに、ちょっと目にかかる長さだねー」
天然ブロンドの唯の髪は、ひっじょーにサラサラだ。 その髪が、伸びて目を隠している。唯のかわいい目が・・・!
「……なんかで前髪留めよっか?」
「え?」
「たしか、この辺にヘアアクセが…」
『前髪がはらりと目にかかる美少年…』なノリも嫌いじゃないけど、家にいるんだから前髪をアップにしたほうがいいよね。 ……べ、別に他意はないんだからね!
「てっててーん♪ ヘアアクセ〜」
「……リボン?」
「いんや。バレッタ」
「いやいや、リボンだろ!?」
いーえ、リボン型のバレッタです。 それから、ヘアピンも。 ……だ、だから、他意はないって言っt(ry
「前髪かかってると、目悪くなるよー?」
「だ、大丈夫だから!」
「一緒にいて、顔が見えなくなったらいやでしょ?」
「い、や・・・だけど……」
適当なことを言いながら詰め寄ると、唯はおとなしくなった。 へっへっへ。アレンジしちゃおーっと。
「髪サラサラだね」
「そうかなー?」
こっちを向かせて、くしで軽く髪を梳く。 前髪をサイドに流して、トップの毛を巻き込みながらぐるぐると編みこみ。 右サイドまで編んだら、一旦ピンで固定。ピンを隠すようにピンクのリボンをモチーフにしたバレットで留めて・・・っと。
「でーきたっと」
「……、」
「〜〜〜〜〜っ!」
「……ち、千夏?」
完成の声を出した瞬間、唯が閉じていた目をおずおずと開けた。 くは〜っ! かわいいよーーーっ!!!
「大丈夫か・・・?」
「っ、ぐっじょぶ!」
「え?」
「やっぱ唯は目が出てたほうがかっこいいねって話!」
「あ、ありがとう!」
写メに残したい! だがしかし、きっと唯は拒否するだろう。 ……部屋に遊びに来た記念〜♪ とか言って、2ショットを撮るか!?
唯の予想以上のかわいさを、どのようにして記録に残すか悩んでいると……救世主が訪れた。
「唯ちゃん、千夏。お隣さんにくだものもらったから……、」
「お母さん!」
かごにフルーツを盛ったお母さんが、目を丸くして唯を見ている。 唯は、恥ずかしいところを見られた! とばかりに顔を真っ赤にした。そして、元に戻ろうと、バレッタに手を伸ばす。
「スト、「ストーーップ!!」…!」
慌てて静止のことばをかけようとした瞬間、それより大きな声でお母さんが唯の動きを止める。 そして、目をパチクリさせる唯に向かって、デジタル一眼レフカメラのレンズを向けた。
「千鶴さん・・・!?」
「名前で呼んで(はぁと)」と笑顔で言い切ったお母さんの言いつけを守って、「千鶴」と下の名前で呼ぶ唯。……本当ごめんよ。 とにかく、千鶴さん・・・お母さんは、わたしに向かって「ちょっとどいてなさい!」と手を振った。
「あとで2ショット撮ってあげるから!」
「ぐっじょ・・・、……ほどほどにね」
「ち、千夏!?」
「ほどほどにね」と言った瞬間、唯が慌てたような視線をわたしに向けた。 ……ごめんね☆
「はい、唯ちゃんこっち向いて!」
「え、と・・・」
「あん。その上目遣いナイス!」
「えぇ!?」
「目丸くしてるのもいい感じー!」
お母さんは、パシャパシャと何枚か撮影した後、うーんと唸って、いったん部屋を出て行った。 そして、レフ板(光を当てる板)とストロボ(影をきれいに飛ばす機械)を持参して、人の部屋で組み立て始める。
「千夏、三脚立てて!」
「は、はい!」
「最初は自然光で撮るわよ! 千夏、レフ板スタンバイ!」
「了解!」
……申し送れましたが、お母さんはカメラマンです。 そんなお母さんから伝授されたレフ板技術で、わたしは唯の顔に光を当てる。
「っ、あの・・・!」
「はい、シャッターごとにポーズ変えて!」
「うぇ!?」
「右手をリボンに添えて、小首傾げて!」
「こ、こう・・・?」
「「ぎゃーっ!!!」」
唯はもはや操り人形。 どうしていいのかわからないらしく、お母さんに言われるがままポーズを取っていく。
最後、わたしと唯のツーショットを一眼レフと携帯で撮影し、お母さんは満足そうに部屋を出て行った。 お母さん、萌えの時間をありがとう!
「……ご、ごめんね?」
「……あの写真、破棄して・・・」
「なんで?」
「は、恥ずかしいからに決まってんだろ!」
「一応言ってみる。……一応、ね」
お母さんは消しはしないだろうし、わたし自身もする気はないけどさ。
――それから、数日後。 わたしの携帯の待ちうけ(最後に取ったツーショット)と、手帳に挟んだこん身の1枚(ぺたんと床に座った唯が、恥ずかしそうに下唇噛んでレンズを見上げているやつ)を発見して本気で怒る唯を、「わたしも唯の言うとおりの格好するから!」と慌ててなだめたら、なぜか「これ!」とダブダブのシャツを渡されました。わたしに着てほしくて、自分も着られないXLを買っていたらしいです。 ダブダブって正義だよね! なんだかんだと言いくるめて、今度はこれを唯に着てもらおうっと!
*** 唯は、付き合う前も、付き合ってからも不憫ですね(;・∀・) 今度SSを書くときは、唯に腰砕けな千夏を書いてやろうと思います! ……想像できないな(;´∀`)笑
ダブダブは正義!
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