(Aoi)
※つばさ視点
「じゃあ、いっくよーん。『ビリジアーン』!」
「ビ、・・・?」
カナの号令に、葵が一瞬きょとんとして見せた。 ……ビリジアン、わかんないのかな・・・? 教えようか、いっそこのまま黙って苦しめてやろうか迷っていると、悠斗くんが呆れたように口を開いた。
「緑な? カナ、ビリジアンなんてよく知ってたなー」
「うわーんっ! 悠斗のばかー!!」
悠斗くんの発言に、葵は「なるほど」という顔をした。……やっぱり、わかんなかったんだ・・・。 とにもかくにも、悠斗くんの言葉でクラスの全員がわっと走り出す。カナはといえば、悔しそうに地団太を踏んだ。
……いま、なにをしてるか、って? ちょっと恥ずかしいんだけど……色おに。 雨が降って校庭がつかえない今日は、急遽体育館で授業をすることになった。 バスケでもなんでもやれると思うんだけど・・・一平先生が提案したのは、なぜか色おに。体育館なんて、そんなに色もないのにね。
現在進行形で、カナがおに。 どうやら、知識を搾り出して専門的な色の用語をあげたみたいだけど……悠斗くんの言葉であえなく撃沈。……かわいそうに・・・。
とにかく……逃げなくちゃ!
「みどり、みどり・・・」
一番色数が多いのは体育倉庫の中だろうけど……たぶん、混雑してるだろうな。 体育館の周辺なら外に出てもいいってことだし、廊下に植木かなんかあったはず! わたしは、混雑する体育館を走り出て、植木を探すべく走り出した。
「うえき、は・・・。……あれー?」
廊下に出て、あたりを見回す。 意外にも・・・植木、ないや。あのへんとか・・・物陰にないかなー?
きょろきょろと辺りを見回す。 みんな体育館内で色を探しているんだろう。人影はほとんどない。 ……ほとんどは、ないけど……。
「つばさ?」
「あ、葵!」
視界に入ったのは、見知った金髪の頭。 さっき「金色」がコールされた折に、クラス中から掴まれていたかわいそうな頭だ。 ……数本、抜かれてたよね。ますます将来の頭皮への不安が……。
「あいたっ」
「人の頭、哀れんだ目で凝視してんじゃねえよ」
一応自分の彼氏の頭皮を心配していると、葵に頭をぽかんと叩かれた。 ……自分だって、ちょっと不安なくせに。
「植木かなんか、ないかな?」
「意外とねーんだよな。……お、」
ふと、葵が一角を見て声を出した。……あ。 体育館とろうかと外をつなぐ一角。そこに、小さな草が生えていた。 ちっちゃい花なんかくっついてるや。
「見つけたー!」
「俺が先」
「ふたりで持てばいいでしょー?」
草をわしづかみしようとする葵の手を制して、ちょこんと草に触れる。 葵も、ぶーぶー言いながら草の端をつまんだ。 草がちょっとかわいそうだけど……少しだけ、我慢してね?
「……くそっ。あいつら、思い切り掴みやがって・・・」
「何本かむしりとられたんじゃない?」
「『金色』コールする瞬間、悠斗の野郎笑いやがった・・・」
「……悠斗くんに限って、そんなばかな」
金色をコールしたのは、誰でもない。悠斗くんだ。 わたしが悠斗くんをかばうようなセリフを吐くと、葵はじとっとした目でわたしを睨んだ。
「悠斗に限って、なんだって?」
「……なんでもないでーす」
まったく、葵は……。変なとこ意地っ張りなんだから。
……葵、葵? あお、い?
「……ね、」
「あ?」
「あおい?」
「ん?」
「あおい、って・・・」
「なんだよ?」
ふと、湧き上がった疑問。 あおい。あお、い?
「葵って・・・何色?」
「へ?」
「葵色ってあるの? 青とか、緑とかなのかな?」
あおい。語感が青に近いし、どことなく緑っぽい名前だよね? いままで考えたことなかったけど・・・「葵色」って、何色なんだろ? そもそも、あるのかなー?
「あぁ。葵、な」
「葵、知ってるの?」
「ま、詳しくはしらねぇけど……」
葵が、ふと視線を下にやる。 そして、手元の草を指差した。
「こんな感じ」
「えっと、この草?」
「草っつうか・・・全体、だな」
全体? 葵にならって、わたしも手元の草に視線を落す。 緑色・・・と、紫がかった、小さなお花。……全体? 2色あるけど……と思いつつながめていると、葵は口を開いた。
「葵って、色っつうか配色なんだよ。日本の伝統的な配色とやらで、淡青と淡紫を合わせたやつ」
「へえ」
「だから、本当にちょうどこんな感じ。日本の服飾美っつうのがあって、ふたつ以上の配色を植物なんかになぞらえたものを「重ね色目」って言うらしいんだけど、「葵」もそのひとつ。葉が淡青、花が淡紫の植物から来てるっぽい」
「青、なの?」
「淡青って、いまで言うと緑っぽい色のことを言うんだってさ」
「・・・す、すごいねぇ」
ふいに気になった「葵色」。まさか、葵がこんなにちゃんと知ってるなんて思わなかった。 ビリジアンも怪しかったのに・・・。
やっぱり、葵も気になって調べたのかな? ご両親からもらった名前だもんね。ご両親は亡くなってるし、聞くチャンスがなかったのかも・・・。
……でも、ネットの検索で「葵」って入力して調べまくってる葵。……ちょっと、絵面がおもしろいな。
「……なんだ、その顔」
「え、え?」
「いまの表情の変化、だいぶおかしかった」
「あ、あはっ」
ご両親のことを考えて寂しくなった後、絵面を思い浮かべてちょっと吹きだしそうになったなんて、そんなことは言えない。 ……でも、笑って誤魔化されてくれる葵ではないんだ。
「言え?」
「やー。勉強になったなー、って」
「つばさ?」
「本当、葵って物知りだねー! さすがっ!」
「つ ば さ ?」
「…………こ、この手はなんでしょう?」
詰め寄るように近づいてきた葵は、わたしの手と腰をぐいっと引き寄せた。 お、おーっとぉ! これは、もしかしなくてもまずい感じですか!?
「ほら、言え?」
「……ネットで『葵』って検索する葵の背中を思い浮かべたら面白いなーって」
「…………覚悟決めろ」
「っ、ごめんなさーいっ!!!」
いつの間にか、背中には壁。 なに素直に話してんだ、わたしのバカっ!!
「じゅ、じゅぎょーちゅうーっ!!!」
「うるせぇ」
「うるさくない!」
「ほら、おとなしくしろって」
「やーっ! 犯されるーっ!!」
「黙ってないとほんとに犯すぞ」
「っっ・・・!」
「黙ってたら濃厚なキスで勘弁してやるから」
「うぅ・・・」
葵の言葉に、慌てて口をつぐむ。 も、もう! なるようになれだ!! わたしは、目を閉じて、近づいてくる葵の唇を――、
「はい。葵ちゃんとつばさちゃん、つっかまーえた!」
唇を、待っていたんだけど……。唇にぶつかったのは、葵の唇じゃなかった。 大きくて、あたたかい……まるで誰かの手のひらのようなものと、カナの声。
……あ、あれ?
「ビリジアン。触ってないの、2人だけだよぉ?」
「・・・ん、ぅ?」
おそるおそる目を開けると……目の前にいたのは、わたしと葵の口を手のひらで塞ぐカナ。 それから、それをぐるっと取り囲む7寮の人々だった。
「体育館のカーテンの裏側とかマットとか、平均台とか……。緑、すげえあったんだよなー」
にっこりと、悠斗くんが笑う。
「ふたりとも、ちーっちゃい緑見つけたみたいだけど……、残念。手、離れちゃったねぇー?」
カナが、わたしと葵の手元を指差す。 ……たしかに。葵の手はわたしの手と腰を掴んでるし……。わたしも、片手を葵に掴まれて、もう片手で葵の服の裾を握り締めている。
「んでもって、いまのゲームが最終戦。最後につかまった人は、寮室の清掃だよぉ?」
「んぅ、っ!?」
「っん!!」
カナのセリフと同時に、無情にもなり始めるチャイムの音。 あ、あ、あーっ!!!
わたしと葵の抗議の言葉は、カナの手に阻まれて声にならない。 いやーっ!!! たしか、色おにの罰ゲームの寮室のそうじって、7寮の全室・・・一平先生の部屋とか、食堂も入るんじゃなかった!?
「……んじゃあ、まあ・・・」
鐘の音が鳴り終わると同時に、カナがパッと手を離した。 クラスの全員が、にっこりと微笑んでいる。
「罰ゲーム、がんばってねぇー☆」
「「絶対むり!!!」」
「わー、仲良しさんだね! その調子なら、すぐ終わるよぉ」
わたしと葵の言葉は、カナの楽しそうな言葉でかき消された。 い、やだーっ!!!
必死の抗議も虚しく……。 授業中にいちゃついていた(そんなことないのに!)ことでクラスの反感をかったわたしたちに、味方は現れず。 わたしと葵は、全室のそうじをするはめになりましたとさ。
*** おおーう。ひさびさの寮生活でした☆ 葵色に関しては、小説を書くために取り急ぎ調べたものなので、間違っていたらごめんなさい! 淡青■と、淡紫■の2色を使った配色、らしいですよ!
久々に書きましたが、初小説のキャラだけあって、書きやすさはピカイチですねー♪
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