愛☆猫 | ナノ


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「さて、早速ですが、アユミへの任務を教えていただけますか?」

「よろしくお願いします」


ここからが本番。初任務を言い渡される。
シズカが問うと、獅子は少し眉をひそめた。


「そ、そうだったな……。さて……」

「何でもおっしゃってください、獅子様。精一杯務めさせていただきます」


ぺこっと頭を下げるアユミに、獅子はより顔をしかめた。


「……獅子様?」


さすがに、ここまで渋るのはおかしい。
シズカが、怪訝そうに獅子に問いかける。
すると、獅子は重い口を開いた。


「いや……実は、アユミくんの名前を……アユムと勘違いしてしまっていてな」

「……は?」

「いや、申し訳ない。かなり素晴らしい星だと聞いていたので、てっきり……男性だと思い込んでいたのだ」

「……はあ」


シズカが眉をしかめる。
……事前に出していたアユミの情報シート。性別は書いてあったはずだ。それなのに、先入観で男性だと思い込むなんて……。


「本当に申し訳ない。……それで、年が16歳とあったから……」

「あの、どういった任務なのですか?」


お茶を濁す獅子に、シズカが問いかける。アユミも、少々不安そうな顔をしていた。


「……韮崎学園への潜入任務だ」

「………は?」


シズカが、思いっ切り顔をしかめ、獅子に問い返した。
美人ゆえ、すごい迫力を持ったそれに、獅子は思わず後ずさる。


「韮崎…学園……?」

「日本の著名人の子息が通っている、全寮制の……」

「そのようなことは存じ上げています。……あそこ、男子校ですよね?」

「そ、そうだ……」


詳しく話を聞くと、こういうことらしい。
韮崎学園は、日本のさまざまな種類の著名人の子ども……つまり、将来日本を引っ張っていくであろう人材が通う、名門校だ。幼稚舎から大学までのエスカレーター式。山に囲まれた土地に悠然と建ち、全寮制であるその学校は、外界との接触を一切断つことになる。
そして、シズカも言ったように……男子校、なのだ。


日本には、二大財閥と呼ばれるふたつの家がある。
藤財閥と、韮崎財閥だ。藤財閥のほうは新進気鋭で、優秀なトップの元にどんどんと市場を拡大していた。対する韮崎家は、旧家で、政界や警視庁にも太いパイプを持っている。かなりあくどいこともやっているらしい、とはもっぱらの噂だ。


そこで、以前から六獣星と親交があった藤家が、韮崎と近辺の調査を依頼してきたらしい。
すでに、韮崎の会社には、六獣星から多くの人間がもぐりこんでいる。
だが、周到な韮崎に阻まれ、現時点で有力な情報は得られていない。
そこで、白羽の矢が立ったのが、韮崎家が理事をする韮崎学園だった、というわけだ。


「現在、韮崎の長男が生徒会長を勤めているらしくての。それに、生徒会を固めている面々は、どこも韮崎とは親交の深い家計の嫡男らしいのだ。……だがもちろん、子どもたちにそのような情報を与えているとは思えないし、実際、そう難しい任務でもないのだ」

「で、でも……理事ということは、韮崎がそこに現れる可能性もあるということですよね?」


シズカの問いに、獅子は首を振った。


「いや。大体は学園長に委任していて、立ち寄ることはないということだ」

「しかし……」


さすがに、男子校への潜入は……。
まずアユミは女だし、聞く限り、かなり重要そうな任務だ。獅子は、そう難しくないと言っているが……。
獅子以外の星々も、眉をしかめた。さすがのシズカも慌てている。


「獅子!貴様、どれほどの任務をアユミにさせようと……」

「男子校!?ありえません!」


先ほどのアユミの冷たい一言でへこんでいたゲンとユウも、抗議をはじめた。


「なぜ、アユミが?」

「年もちょうど良かったし、優秀だと聞いていたからだ」

「でも……。それなら、【犬】のハネルくんも、アユミと同い年ですし……」

「しかし……」


シズカが獅子に懇談する。
さすがに、初めての任務にしては過酷すぎる。それにアユミは女だし、不可能ではないか。
与えられる任務に、文句を言うことなどほとんどない。でも、今回ばかりは素直に頷きがたい。





カチャリ





そのざわめきを破ったのは、カチャリという微かな音だった。
抜刀の音。
ガヤガヤとうるさい中でも、キケンな音の察知くらいはできる。


獅子に詰め寄っていた星々が、音のするほうを振り返った。


ザンッ!


鋭い音。
そして、その音と共に、ぱらぱらと舞う栗色の髪。





「ア、アユミ……」





呆然と呟くユウ。
常備していた小刀でポニーテールの先を切り落とし、不揃いなショートへアへとなったアユミは、唖然とする一同に向かって微笑んだ。


「そのような重要な任務をいただけるなんて、光栄です。お引き受けいたします」


にっこりと笑うアユミと、しーんとした静寂。
獅子だけが、こくりと頷いた。






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