Side Ayumi
あれ? なんかわたし、食べられた?
理緒が、すごくステキなところに連れてきてくれた。 地図をくまなく見ていたはずなのに、知らなかった場所。 中は、プラネタリウムみたいになっていて、すごく…綺麗だった。
はじめて連れてきてくれたなんて、本当に嬉しかったし、一緒に星を見ていたら、心が穏やかになっていくのが分かった。
……なのに。
急に抱きしめられたのは、まだいい。 だって、理緒にとっては男同士だもん。ビックリしてちゃダメ。
でも、唇を舐められたのには……流石に、驚いた。
……学生の男の子って、こんなスキンシップ取るんだ……。
「ん、…り…」
ぱくりと唇を理緒ので包まれて、思わず身じろぐ。 理緒は、はむっとわたしの唇に噛み付いた。
「ちょ…り、‥っお…」
「……歩…かわいい、」
ちゅっとリップ音がして、理緒の唇が離れた。 ……え、あれ? なんだこれ?
「……あゆ、む?」
「…あ、はい」
間抜けな声で返事してしまう。 ……これってもしかして、キス?
「怒った…?」
「え、…うん?」
怒っていいのか? 男同士のキスって、怒ってもいいのかな? 怒ったら、女だってばれないかな?
学校に行ったことがないわたしは、その辺のさじ加減が分からない。 こんなこと、お兄ちゃんやヒデは教えてくれなかったし。
「……ごめ、ん…」
理緒は、傷ついたような顔をして、わたしから離れた。 ……やっぱり、怒ってもいいんだよね?
「……なんで、キスするの?」
男同士って、キスしないよね? もしかしたら、ばれちゃったのかな…? そう思って恐る恐る理緒に尋ねると、理緒はこてんと小首をかしげた。
「おいしそうだったから……」
「おいし!?」
おいしそうって…。 ……じゃあ、ばれたわけじゃ…ないのかな?
「男同士なのに……?」
「……うん。だって、おいしそうで…」
その言葉を聞いて、まず安堵した。 ばれたわけでは無いみたい。 キスした理由は正直よく分からないけど、まあ……いいか。
まだちょっと混乱していたけど、ふっと腕時計を見て、我に返った。 ……やばい!わたし、入寮初日だった!
「……歩?」
「ん?」
慌てて荷物を手に取る。 テトの頭を撫でていると、理緒が不安そうに声をかけてきた。
「‥行っちゃう、の?」
「うん。職員室行かなきゃ……」
理緒は寂しそうにしゅんとしてしまった。
「ごめんね?……あの…また来てもいいかな?」
「……っ、」
こんなステキな場所、また来たいし。 そう続けると、理緒はふわっと笑った。 金色の目が、やんわりと細まる。
「……ん。来て。……待ってる」
うわあっ……。 理緒の顔、すごく綺麗。
わたしも理緒に笑いかけて、荷物を抱えなおした。
「また来るね。ステキな場所を教えてくれて、ありがとう」
「たくさん来てね」
テトと同じようにこてんって小首をかしげて、理緒がばいばいと手を振った。 わたしも手を振り替えして、ドームを出る。
「やっばい、急がなきゃ!」
予定外の道草だったけど、すごくいい出会いだったなー。 わたしは、そんなことを思いながら、寮への道を走った。
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