Side Rio
いつもの場所で1人でいた。 そろそろフェネックにご飯を上げなくちゃと思って外に出ると、知らない男の子がフェネックを抱き上げて、話しかけていた。
誰、と問いかけると、自己紹介をしてくれた。
……この子、やばいんじゃないかな。
編入してきたとにこにこ言う歩は、この学校じゃすぐにでも襲われてしまいそうだなと思った。
「……な、に?」
「え、……あっ!ごめんなさい!」
いつの間にか、じいっと俺の目を見ていた歩。 何かと思って問いかけると、慌てて俺から離れた。
「すみません……。あの、その目って……」
「……これ?」
「はい。……カラコンなんですか?」
よく聞かれる。 でも、これはカラコンではない。
首を振ると、歩はぱあっと顔を輝かせた。
「すごい…綺麗。……髪色と目で……お星様みたいですね」
そう言って、歩はふにゃりと笑った。 星、みたい……。
「こっち、」
「え?」
フェネック…テトを片手で抱き上げて、歩の手を取った。 人のこと言えないけど……腕、細い。
「あ、あの……」
「こっち、来て?」
くいっと引っ張ると、歩はおずおずと付いてきた。 そして俺は、いつも俺が過ごす、ある場所に歩を連れていく。
「え……?」
茂みをさらに抜けると、白いドームが建っている。 俺の、大事な場所。
「ここって…」
「地図には、載ってない。……来て」
戸惑う歩の手を引っ張って、ドームの中に引っ張り入れた。 ドアを閉めて、カチッと部屋のスイッチを押す。
「わあっ……」
その瞬間、歩が声を上げた。 ドームの中は、紺色の壁面。 そして、瞬くのは、金色の星々。
「す、ごい……」
歩は、目をキラキラさせて、ドームを見ていた。
「ここ、俺の大事な場所」
連れてきたのは、歩だけ。 そういうと、歩はちょっとぽかんとしたあと、にこっと笑った。
「ありがとう、うれしい!」
「…う、ん」
こくんとうなずいて、空に目をやる。
すると、歩が宙を見上げながら、口を開いた。
「鈴城さん?」
「……理緒」
「理緒?」
「……ん」
ちょっとびっくりしたように、歩が尋ねる。 でも、鈴城さんより理緒のほうがうれしいから、俺はうなずいた。
「……理緒?」
「ん、…なに?」
歩に目をやると、歩は口元を緩めた。
「あの……星、好きなの?」
「う、ん…。好き……」
俺の目を星みたいだなんて、歩が始めて言ってくれた。 すごくうれしかった。連れてきたのは、そのお礼。
「……理緒の目、あれみたい」
穏やかな気持ちで見上げていると、歩がある星を指差した。
「……ど、れ?」
「あの……金色の」
歩が指差す星がどれかを知りたくて、歩の肩に頭を乗せた。 歩は少しびくりとしたけど、星を指差す。
「……アルバデラン」
「あるばでらん?」
「おうし座の…1等星」
とても綺麗な星。 とても、好きな星。
嬉しくて、肩を乗せたまま、歩をぎゅっと抱きしめた。
「ひゃ、っ…」
「……ごめ、…びっくりした?」
さすがに驚いたのか、歩が身じろぐ。 困らせちゃったかと思って歩を覗き込むと、歩はちょっとだけ頬を染めて、首を振った。
「んーん。大丈夫」
「……歩」
「ん……?っ、ん」
可愛い。 歩の目は、青くて綺麗。 唇は、さくら色で、おいしそう。
俺は、歩の唇をぺろりと舐めた。
「……、っ!?」
驚きの表情で俺を見る歩。 ……あれ?やりすぎた?
「・・・ごめん、おいしそうだったから……」
「お、おいし!?」
俺は、呆気にとられている歩の唇に、ぱくりと噛み付いた。
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