No Side
ちなみに、優哉がレッスンに加わることで起きた弊害。2つほどある。
まず、髪。 会議で髪を切った歩だが、男性にしてはいささか長い。任務のためならと、もっと男性っぽい髪型にしようとしたのだが、優哉に全力で止められた。 会議のときも、歩の髪が切り取られたことに、誰よりも悲しんだのは優哉なのだが……。「これ以上切るならまた反対してやる」と子どものような脅しを受け、歩はしぶしぶ頷いた。
次に、言葉遣い。 「オレ」は可愛くないからダメ。「〜だぜ」なんて、いまどきの男は言わない。 それもこれも歩が乱暴な言葉を使うのが耐えられなかっただけなのだが、なんだかんだと言いくるめてしまった。
こんなんで大丈夫なのか?という歩に、優哉は自信満々で頷いた。 隣のヒデが、少し困ったような顔をしていたが……。
ちなみに、歩は「あゆむ」として潜入することとなった。 本名も、三毛ではなく、「三宅」と偽る。 高校1年生からでもよかったのだが、年も年だしということで、2年からの編入。 怪しまれないように最近成りあがってきた財閥の次男という設定で、親が海外に行くことになったから寮に……という裏設定を作り上げた。
「あーゆみっ」
「んー?」
「とりあえず、襲われないように気をつけろよ…?」
「う、うん…。……普通の学生じゃないの?」
「んー?財閥の息子どもだぞ?」
「そうじゃなくて。……そんな、どこぞの戦闘民族みたいにケンカ売ってくるの?」
襲われる、の意味を履き違えている歩に、優哉は苦笑いした。
「そうじゃなくて……。ま、いっか」
「うん。でも、気をつけるよ」
「おう」
歩がそう言うと、優哉は微笑んだ。 完全にシスコン、それも、ちょっと行き過ぎた部類に入るのだが、なんだかんだ歩は優哉が大好きだった。
「お兄ちゃんに会えないのも、やっぱり寂しいよ」
そう言って、歩は頬を膨らませた。 なんだかんだ一人ぼっちは心細いらしい。ただ、それに勝る志があっただけのこと。
「あ、あゆみいっ!」
「わっ!……だからあっ、前見ろってばあっ!」
歩にどつかれた優哉は、いじけながらも車を走らせた。
山道に入ってしばらくすると、目の前に……お、お城が?
「……なに、あれ・・・」
「……まあ、学園だろうな」
……とって食われそう。
歩はそんなことを思った。 そして、家を出て5時間21分後。
韮崎学園の敷地に、車は滑り込んだ。
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