2人の記憶


あなたに伝えたい気持ちがある。
声がかれるまで何度でも言いたい。
ねぇ、僕の声 届いてますか?

 2人の記憶


宮坂は病院まで急いでいた。
走って走った…
いつもなら、なんて無い距離だが今日は長く感じた。

「風丸さんッ!」
病室のドアを勢いよくあけると、サッカー部員に囲まれ、ベットに横たわる風丸の姿があった。
「風丸さん…?」
宮坂の登場に全員がいっせいに振り返る。
宮坂の呼びかけに何も答えず力なく横たわるだけの風丸を見て泣きそうになるのを必死にこらえ、ドアの近くに立ち尽くす。
「宮坂…風丸は部活中に倒れたんだ。お医者さんが言うには記憶喪失らしい。」
「そ、そうなんですか…」
生きていてくれたことにホッと息をつく。
しかし、記憶喪失と聞き不安が襲う。
そう話していると、風丸が目を覚ました。
「…うぅ、あ、皆…?どうしt…」
風丸が言い終わる前に宮坂が風丸に抱きつく。
「か、風丸さん!心配してたんですよ、大丈夫ですか?!」
顔を上げると不思議そうな風丸の顔が映った。
「?…すまない。誰だ?」
「え、そ、そんな…」
そう言われ風丸から身体を離す。
「すまない。」

次の日からも宮坂は思い出してもらおうと毎日病室に通った。
「風丸さん!こんにちは。」
「あぁ、君か。いつもすまないな。」
「いいえ!そんなことより…」
まだ思い出してくれないのか、と寂しさがこみ上げる。
と、そこに円堂がお見舞いに来た。
「風丸ー!元気か?」
「あぁ、円堂か。体調はいいよ。」
そっか!と言ってニコッと笑う円堂につられ、風丸も笑顔になる。
 どうして、どうして円堂さんの事は覚えてるのに、僕は…
ネガティブな気持ちになる。
「風丸さん、今日はこれで…また来ます。」
「あぁ、いつもありがとう!」
「いえ。」
今日も名前を呼ばれなかった。
宮坂が病室を出ると、風丸の顔が曇った。
思い出せない罪悪感からか。
記憶喪失は、なっている時はそれ以前の記憶が全てなくなってしまう。
しかし、記憶が戻ったら次は記憶喪失の時にあった事を全て忘れてしまう。
とてもとても悲しい病気なのだ。
「風丸?」
「あ、あぁ、なんだ?」
「大丈夫か?」
「あぁ。…それより、彼は誰なんだ?」
「覚えて、ないのか?」
「思い出せないんだ。昔、何かあったんだよな…?」
「あいつは、宮坂は、お前の後輩なんだ。陸上部の!」
「でも、俺はサッカー部な、はずで…」
「俺が、引き抜いたんだ。ごめん!俺があの時引き抜いたりしなければ…」
「円堂?俺、サッカー部に入ってよかったと思ってるよ。ありがとうな!」
「風丸!」
それから風丸に昔の事を話した。思い出せるようにとたくさんたくさん。
そして、この日から日記を書くことにした。

それから数日が経って、風丸が退院した。
宮坂は部室でマッハと話していた。
「マッハ先輩ー!どうして風丸さんは僕の事だけ思い出してくれないんでしょう?」
「お前、なんかしたんじゃねーの?」
「してませんよ!…したかもしれないけど…」
「どっちだよ!…まぁ、記憶喪失は一生そのままって訳じゃないだろ、いつか思い出すさ。」
「そうだといいんですけど…」
陸上部の部室で静かな時が流れ、沈黙が訪れた。
その沈黙を破ったのは、予期せぬ人物だった。
「おーい、誰か居るか?」
青い髪を上で束ねてオレンジ色瞳を片目だけ隠した人物だった。
「か、風丸さんっ?!」
「おう、宮坂か。」
「え、僕の名前…風丸さん、思い出したんですか?!」
「…すまない、部活したら思い出せることもあるかなって思って。」
「そうですか。」
その日は1日、風丸とたくさん走って飛んで、とても良い充実した日だった。
帰りは一緒に帰って、いつもの様に寄り道をした。
河川敷の芝生に2人で並んで座った。
「風丸さん。僕、先輩にずっと憧れてました。」
「どうしたんだよ、急に?」
「いえ、前も言ったんですが…やっぱり思い出してほしくて、それと…」
良いずらそうに口を閉じて目をそらした。
「それと?」
「そ、それと、僕は風丸さんが大好きなんです。」
驚いている風丸の目を見てさらに言う。
「大好きだから、僕、ずっと待ってますから!」
「ありがとう。宮坂。」
「宮坂、俺も、俺も宮坂の事…好きだぞ。」
そういわれると宮坂の頬に涙がこぼれた。
「宮坂?」
「嬉しいです、そう言って貰えて!」
涙をぬぐって、ニッコリと微笑んだ。

次の日、いつも通りに部活に行くと、風丸が居た。
「風丸さぁーん!今日もこっちなんですね、一緒に走りましょうよ!」
「落ち着けよ。これだから、お前は…」
そう言って、抱きついてくる宮坂を制止する。
フラッと足元が揺らぎ、宮坂の方へと倒れこむ。
「か、風丸さん!?」

病院へ行き、昔こう言う事があった事を思い出す。
前とは違っていることは、最初から宮坂が病室にいると言う事。
「うぅ…」
「風丸さん!」
風丸の目が覚めた。
「皆…それに宮坂。」
「大丈夫か、風丸?」
「あぁ、しかし、どうしたんだよ、お前たt…宮坂?」
今度は覚えてたんだ。と、嬉しくなり涙目になる。
「風丸さん!覚えててくれたんですね!よかった。僕…」
「宮坂。」
「風丸、俺達今日は帰るから!思い出したみたいで、よかったぜ!」
「キャプテン?」
「ほら、栗松!風丸の分も帰って特訓だ!」
そう言ってサッカー部の皆が去っていった。
風丸と宮坂の2人を残して。
「風丸さん、僕…」
「宮坂、すまなかった。」
そう言って宮坂を抱き寄せる。
「風丸さん。」
「思い出したよ、全部。」
「僕…」
「前に言ってくれたことも、全部。それでさ、」
一言一言、大事に、選んで言葉にする。
「返事、まだだったろう?聞いてくれるか?」
「は、はい。」
顔を真っ赤にし、きょろきょろと落ち着かない宮坂の目を見て風丸が言う。
「俺さ、円堂とサッカーやってて、わかったよ。俺が好きなのはサッカーだって。」
「え?」
「でも、それよりも、宮坂。俺はお前が好きだ!」
「そ、それじゃあ…」
「あぁ。」
「風丸さん、僕も大好きです!風丸さぁん!!」
「お前の事はもう一生忘れない。離さないからな!」
「離さないでください、ずっと、ずーっと!」
2人で抱き合ってたくさん話をした。
あの日の忘れていた時間の事を、たくさん。


あなたに伝えたいことがある。
忘れてしまったのなら、何度でも言おう。
僕の好きな人はあなたしか居ないから。






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