ゼロ→ムゲン2 | ナノ


ゼロ→ムゲン2

「ちょっと!俺の家まで待てないの?」
「ラブホが良い」
「コンビニでは恥ずかしそうに後ろついてきたくせに…、こんな場所来るなら此処でゴム買えば良かったじゃないか」
「だ、だって!雰囲気味わいてぇだろうがよ!」

歓楽街の脇で、ぎゃいぎゃい騒ぎ立てるは青年男子二人。
ラブホテルの玄関先にて、部屋選びのパネル前で喧嘩勃発だった。
後ろに控えているカップルが入ってくるなり二人を見るとそそくさとその場を去ってしまった。
…これで何組目か。

「あーあ、明日からもう外歩けないよ。情報屋と池袋最強がラブホに!なーんて、ダラーズの掲示板とかに書かれるんだ」

臨也は、肩を竦めて両手の平を暗くなっていく空に向けた。

「大丈夫だ、テメェはホモじゃねぇって俺が言ってやる」
「ッ!やめてよ、ただでさえ仕事でそっちに誘われやすいんだから、煽るだけなんだよそういうの!」

いい加減パネルから部屋を選んでしっぽりと行きたい所だったが、言い合いはまだ続いていた。
監視カメラがあるのを気に掛けていた臨也は、適当にボタンを押す。

「おい!部屋は俺も選びて…」
「フン。一番高い部屋にしたから、思う存分雰囲気を味わうといいさ」

振り返った臨也は完全に男であった。
続いて、静雄はパネルに表示されている値段を見て目を見開いたのだった。

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無意味なゴージャス空間を醸し出すエレベーターは、他のカップルと出くわさないようシステムが組まれている。
静雄がそわそわしているのは多分そう言ったシステムを知らずしてだろう。

「ちょっと、落ち着きなよ。空気で騒がしい」
「るせーな!ていうかテメェ、仕事でジジイに脚開いてんじゃねえだろうな」
「はぁ?今のタイミングでさっきの続き?」

また言い合いが始まりそうだったが、エレベーターはタイミングよく最上階に着いていた。

「ワンフロアがそのまま部屋になってるんだって」
「!それってすげぇじゃねぇか。お前本当金持ちだな」
「シズちゃんの処女喪失を祝うのには安いもんだよ」

意地悪に流し目で言って見せると、静雄はまた赤面した。
…冗談の通じない男だと改めて思った。

エレベーターを降りてそのまま直ぐ目の前に重厚な扉があった。
上の部屋番号のランプがチカチカと光っている。
改めて今の状況を把握し直した臨也は、その雰囲気に苦笑しそうになった。

「…でもまぁ、男同士なのによく入れてくれたよね、ここ」
「?普通は入れねぇのか?」
「男同士は断れるケースが多いよ。何?取立てとかしてるくせにそんなことも知らなかったの?」

馬鹿にしているというのに『へえ』と生返事をする静雄。

「…何でもいいけど真後ろに居るのやめてくれない?息が髪の毛に掛かって気持ち悪い」
「背の小さいテメェが悪ぃ」

175cmは小さいのか、185cmある静雄がでかすぎるんじゃないのか、などと文句を言いたかったが、とりあえず部屋に入ることにした。

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「ラブホとか久しぶりだなァ」

臨也はスキップしながら部屋に入った。
もちろん、静雄への嫌味であり、大げさに声を大きくして言って見たのだった。

「俺は初めてだクソノミ蟲。誰と来たんだこのクソが」
「…シズちゃんと喋るの疲れるんだけど」

流石に思い通りの返答が返ってくるとやはりうんざりした。
再確認は大切だ。
何って、そりゃあ今からのリアルを受け止めるのにだ。
乱雑に靴を脱いでずかずかと入る静雄の後姿を見て、いつもであれば取引先の美人や取り巻きの女性たちだった臨也にとって、こういう光景を目に入れる日が来るとは思いもしなかった。
考えるのをやめ、とりあえずドア近くにあったクローゼットに脱いだコートを掛ける。

「シズちゃーん、俺シャワー浴び…」
「わあああああ」
「…」

何したあいつ、と疲れた顔をして長い廊下の果てまで歩くと、ふとテレビの音が耳に入った。

「ボ、ボタン押したらいきなり!ちが、違う、俺は別にそんなつもりじゃな…!」

臨也が部屋に入ると、七二インチほどの液晶テレビから、あられもない声と音が流れていた。
リモコンを持って慌てている静雄がボタンを次々に押していたが、どのチャンネルもそういったものばかりで、バタバタとその場で飛び跳ねている。

「ただのポルノでしょ。慌て過ぎ」

ちらりと見やった画面では、病院の一室で患者と看護士が、まぁそういうシチュエーションで事に至っている、何の変哲もない内容だった。

「だ、だって有料、ていうか誤解だ!」
「ラブホは無料なの、誤解も何もシズちゃんの性癖には興味ないから安心して」

手のひらをヒラヒラと泳がせて騒がしい視界から視線を外した。

「!違ぇ!俺はナースより白衣派なだけだ覚えとけ!」
「もう、うるさいよシズちゃん、見たいなら見てれば?俺シャワー浴びたい」
「しゃ、しゃわー浴びんのか」

部屋に木霊するは女性の喘ぎ声と粘着力のある音。
臨也は何ともないといった風に静雄の顔を見やる。
聞いていないフリをしているが、チラチラと画面を盗み見しているのが明確に見て取れた。

「興奮してきたの?」

ナース興味ないんじゃないの?と小さく付け加えて言う。

「バッ!ふざけんじゃねぇ!誰がこんなもんで」
「顔真っ赤だよ」

人差し指で頬をつついてやると、静雄の体がビクッとはねた。

「かわいいー」
「!…ほ、本当か?」
「なわけないだろ」

しばし静寂が流れ、互いが違う理由にて半眼で睨み合う。
この辺からもう臨也は答えるのが面倒になってきていた。
あくびをしながら浴槽に向かう。

「ていうか、シズちゃんスリッパくらい履いてよ。」
「はぁ?部屋でスリッパなんか履くかバカかテメェ」
「…」

もう面倒だから無視することにする。
流石に一番高い部屋だけあって、お風呂は露天とガラス張りと二種類あった。
ガラス張りの方は猫足バスタブで、いかにもお姫様仕様だったのだが、臨也の心が高鳴る。

「いいねぇ、悪くない」

コックを捻って浴槽を流した。
シャワーだけのつもりだったが、気分が良くなってきたので湯を張る事にしよう。
そう思った矢先、

ぎゅ

「!」

振り向くと、直ぐ後ろに静雄が居た。
後ろから包み込まれるように抱きしめられ、シャワーが踊った。

バシャ

「うぶっ」

勢いよくコックを捻っていたので、服のままの二人は直ぐに濡れてしまった。
文句を言おうと振り返ったが。
ふと、目に入ったもので、それは中断された。
…静雄が、スリッパを履いていたのだ。

「…!…ふふ、あははは」
「なに笑ってんだよ」
「んー?いや、今まで知らないことが一気に判ってきたなぁって」
「ああ?」
「一瞬圧死かと思ったのに」

雫が髪を伝う。
臨也の黒服は見事に漆黒になり、肌に張り付いてその細さを際立たせた。

「…」
「…俺のことそんな目で見ないで」

何ともいえない気持ちになり、静雄の顔半分を左手で隠した。
静雄は、ぐっと何かを堪える。
煽りついでに臨也は髪をかきあげた。
その仕草に生唾を飲み込む静雄の喉仏の、なんと男らしいことか。

「っ濡れると…髪が長くなったように見えんな」
「ふふ…そうだね。俺ってセクシーだろ?」
「気持ち悪いほど似合ってんなその台詞。マジ殺してぇ」

そういった気持ちも本当なのか、静雄のこめかみには血管が浮き出ていた。
猫足のバスタブの中に、シャワーの流れで二人の身体も自然に流れはいった。
仰向けで臨也が下になっていたので、静雄は無意識に腰に手を回して気遣う。
シャワーの水音と、曇ったガラスと、臨也と静雄。
しばし見詰め合った。

「…」
「…」

そして、静雄が痺れを切らし、唇を合わせてきた。
臨也にはそうなると判っていた。
判っていて焦らす。

「…ん」

おかしいな、こんな手法、今まで女性にしか使わない筈だったのに。
触れるだけの時間、触れる音だけが、何度も繰り返される。
静雄の手に力が入り、息が上がってくる。
静雄は、壊さないように潰れないように、徐々に我慢を飛び越えそうになっても、今の時間だけを追いかけた。

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