ゼロ→ムゲン | ナノ


ゼロ→ムゲン1

※ノンケ同士。静雄→→→臨

「おい、クソノミ蟲。絶対に“なんで?”って聞くんじゃねぇぞ」

時は夕刻。
仕事帰りのOLやサラリーマン、授業を終えた学生達…様々な人間が行き交う池袋での路上にて起こった。
『喧嘩人形』というネーミングを巷では付けられている、平和島静雄が、拳を鳴らしながら『情報屋』である折原臨也を見下ろして言った。
後ろから声を掛けられたかと思えば、開口一番に随分な意味不明さだった。
非日常に非日常が重なったのは、自動販売機や標識が先に飛んでこなかったことだろうか。

「何も言わず、俺を抱け!!」

手の平を握り込み、親指を自身に力強く指した静雄が、そう叫んだ。
さりげなくナイフを袖口から覗かせていた臨也は、微かに眉を上に反応させた。
こう答えるしかない。


「…なんで?」


ガシャアアアアアアアアアアアアアアン

「ん?」
「なんかすごい音、したくね?」

一つ向こうの路地では、帝人と正臣が杏里を挟んで下校していた。
耳に響くのは、普通では聞かないような鈍い金属音。
地面が割れているような、そんな騒音だった。

「また、暴れているんでしょうか…」
「平和島静雄と臨也、とかだったらやばそうだな、サイモン呼んどくかぁ?」
「や、やめようよ、正臣。」

帝人は制すように面白がる正臣の背中を押した。
残念そうに口を尖らす正臣を後ろから見つつ、杏里も後ろからついてくる。
そのまた後ろで、鈍い音が二、三度。
チラリと見やったところ、折れ曲がった標識が吹っ飛んでいた瞬間だった。
帝人は目をぎゅっと瞑り、その場を慌しく去っていった。
―時は夕刻、その鈍い音が響き渡る路地に戻る。


「なんでって、聞くなって、言った、だろぉ、があああ!!!!」

ビュン!
勢いをつけて辺りのものを投げ散らかす平和島静雄。
素早く避けて交わす臨也だったが、このままでは警察が来ても面倒だと思い、その場を走り抜ける事にした。

「待て!この、ノミ蟲野郎!!」
「抱いてってシズちゃんそれ、想定外どころか、言わば宇宙はどこまで広がってるの?って聞いているようなものだよ!」

平然そうに高らかに。
ナイフをパチン、パチンと躍らせながら駆けてゆく臨也。
その後ろを野獣のように追いかける静雄。
臨也でも少しくらいの動揺はあったのか、道が塞がっているのに一瞬気づくのが遅かった。
目を細め、何かを計算する。

「わぉ、久しぶりだ」

そう言った次の瞬間、汚いビルの壁をよじ登り始めた。
臨也の体重と俊敏さが抜群のバランスとなり、パルクールを繰り広げる臨也だったが、反対に静雄は技術ではなく、指圧でビルに穴を開けてよじ登ってきた。

(たく…人の努力を惜しげもなく越してくるんだから)

そうして臨也はまた、静雄のことを嫌いになった。
ひとつひとつずつ、着実に世界で一番憎く、疎ましく、嫌いになっていく。
それをいけしゃあしゃあとこの男は、自分を抱け!と言うのだ。
面白くないのにも程がある。

「逃げんな!」
「そりゃ無茶な話だよ」

ビルを上る途中で、隣の雑居ビルの屋上が丁度目の前に現れた。
臨也はコンクリートの壁を蹴って、飛び降りる。

ダンッ!

ハッと気付いた静雄が続けて飛んだ。
後ろを振り返る瞬間、折り畳まれていたナイフを鳴らす。

ビュッ

「!」

ガシッ

そして、刃ごと、手の平に握りこまれた。

「!」
「残念だったな臨也くんよぉ。俺ぁ今じゃもう皮膚も切れないらしいぜ」

ぐいっ

「…ッ!」

勢い良く引っ張られ身の危険を感じた臨也が咄嗟に目を瞑った。
が、

上から大きな体に包み込まれる。


ふわり


「…え?」
「なぁ、どうしたら、抱いてくれんだ?俺のこと」


懇願するような声を、臨也はこの時初めて聞いた。

--------しばしの時間、臨也は動けずにいた。
今まで喧嘩などでは体に触れた事は無論あるだろうが、こうした触れ方は無論初めてなわけで。

「えーっと。まずは整理しようシズちゃん」
「お、女じゃねぇから…駄目か?興奮しねぇ、よな…」
「な」

あの平和島静雄からそんな台詞が出るとは、臨也は白目をむきそうになった。

「例え君が女性でも俺は抱かないよ。これが答え。離して本当」

珍しくこめかみに血管が浮き出そうだった。
こんなのは俺たちじゃない。
いつも殺し合いをしていた仲であるのに、何故いきなりこうなるというんだろうか。

「嫌だ」

今しがた結構な辛口を食らわせたつもりだったが、負けじと体を離そうとしない静雄に溜め息が出た。

「俺、てめぇのことは殺したかった…つもりだった、それは間違いねぇんだ」
「つもりだった時点で間違いないは説得力ないんだけど」

文句を言いつつも、静雄の肩の位置が臨也の顎の位置の高さと丁度良く、自然に置いてしまって何だか居心地が良い。
不思議な気分になってくる。

「あのさシズちゃん、何で…俺に抱かれたいの?」
「ッ気付いたからに決まってんだろうが」
「いや、だからなんでそこでキレるの?怖いから」

眉間にシワを寄せる静雄を間近で見上げると、どう考えても抱けそうにないなと結論が出た。

「抱きたいじゃなくて、抱いて欲しいってところが意外だね。俺自分で中性的な自覚あるのに」

流し目で挑発すると、静雄がびくりと動揺する。
またまた初めて見る静雄の表情だった。

「わかんねー…どうこうしたいっつーより、され…」

最後まで言えず、顔を真っ赤にして俯いてしまった。
それを覗き込むようにして瞳を覗き込んでやる。
臨也は、後ろに回された静雄の左手の手首を掴むと、大胆にも股間に持ってこさせた。

さわ…

「!!!なっ、なっ」
「それって変態の域を超えてるよね?俺にそんなこと思うなんて相当のMなんじゃないの?嫌いだったはずの俺に、これ突っ込んで欲しいってことでしょ」

一ミリたりとも興奮などしていない臨也の其処は柔らかかったが、這わせるだけで静雄の手の平は硬く緊張していた。
耳まで赤くした静雄を半眼で見やると、その程度が知れる。

「…へぇ、本当なんだ」
「…ッ」

ぎゅっ、と目を瞑って何かを堪えている静雄を見ると、更にため息が出た。

「さっきまでの威勢はどうしたの?あんな大声でカミングアウトしておいて、今の有り様といったら!」

狭い空間で自由な右手を空に掲げる。
密着した体から感じれるのは、静雄の其処は既に硬くなっており、先ほどから臨也のと当たっている。
…何とも言えない気持ちになった。

「俺は男も女も皆、人間は平等に愛しているけどね。男は性的な目では見たことがないよ。当たり前だけど」

首を傾げながら俯いた静雄に告げる。

「でも俺は化け物で」

静雄は話の途中で小さく叫んだ。

「だから、例外だろ…ッ、四の五の言わずに抱けよ!一度で良い…」
「…」

まただ、懇願する声に飲み込まれそうになる。

「それか、女の格好すれば、ちょっとは興奮する、か?」
「いや遠慮するよ」

少し想像しかけてすぐさま首を横に振った。

「そっか…トムさんには、似合うって言われたんだけどな」

途端、臨也の顔つきが変わった。

「へぇ、したことあるんだ?」

何故腹が立ったのかは判らなかった。

「仕事の宴会で…無理やりだけどな」
「…何したの?」
「ナースだよ。やってやろうか…?」
「ッだからいらないってば。俺にその手の趣味はないよ」

自分らしくない答え方に反吐が出た。

「シズちゃんと話していると調子が狂う。大体君、年上が好きとか言ってたくせに…」
「キスだけでも試せよ」
「…ッ」

(いい加減にしてくれ。)

手の平を額に当てる。
どことなく頭痛がしてきた…ような気がしないでもない。
そう嫌そうな表情を露にするも、静雄はめげなかった。

「試せって。なぁ」
「…そんなに?」

どうしてそうこだわるのか。
今まで見たことも聞いたこともない人間模様だった。
ああ、違うか、こいつは化け物で…

「…まぁ、いい」
「え?」

臨也にとってさほど性欲は重要ではない。
だが、セックスの果てに見れるものがあるなら話しは別だ。

「ほら」
「…ッ」

ん、と目を閉じて促した。
今静雄は自分の唇を凝視しているに違いない。

「したいんだろ?キス」
「し、してぇ、けど」
「ははぁ、いざとなると出来ないタイプ?女々しいねぇ」
「ッるせえな!てめぇほど余裕ねぇんだよ!」

先ほどから言い合いの繰り返しだが、ずっと密着したままなのだ。
笑える。

「俺の唇、シズちゃんの理想だと良いんだけど」
「…ッ」

静雄は色素も厚みも薄い、臨也の唇を物欲しそうに見ている。
離れては近づき、震える手で臨也の肩を掴み直す。
そして、近づいては顔を背ける静雄にイライラしてきた臨也は…

ぐいっ

「ぅおっ」

静雄の蝶ネクタイを指で引っ張り、とうとう自分から唇を合わせた。


ぷちゅ。


「…」
「…ッ!!!」

一瞬触れただけだったが、静雄の唇は至極柔らかかった。
その意外さに舌打ちをしたくなる。

「あ、あ…」

薄く目を開けると、女も顔負けの純情ぶりで耳まで真っ赤になった静雄の百面相が目に入った。
臨也は複雑な気持ちで彼の静かなる動揺を見守ることにした。

「お、おれっ がん、がんばるからよ…!」
「!」

顔を真っ赤にしたままの静雄が叫んだ。

「ふふ…あははは!」

何をだよ、と突っ込みかけたが、まぁいい。
久しぶりに面白いものが見れたような気がした。
何だか、とても馬鹿らしいけれども。
それが凄く今は滑稽で、未知数で、満ち足りた気持ちになった。
出会う前はゼロから。
今はカウントアップを続けて。

「そうだねぇ…手始めに、始めてみますか?俺と」
「!…いい、のか?」
「こんな熱烈な告白は初めてだよ、退屈しのぎに…付き合ってあげる」
「…っ」

急な展開に動揺を隠せない静雄はそわそわとしている。
その様子がおかしくてたまらない。

「で、どこらへんが?」
「は?」
「惚れた理由だよ。怖いけど聞いておかないとね」
「…ぜ、ぜんぶ?」

目線を上にして考え込む静雄。

「…適当過ぎない?」

それは流石におかしいだろう。
愛し方が狂っているのは他人に言われずとも自覚のある臨也だ、全部と言われてもしっくりこない。

「知るかよ!傍に居てむかついたり殺したくなったり、ドキドキしたり、気づいたら追いかけちまうし…それが理由だよ充分だろ!」

「いや、前者の方おかしいよねぇ…」

臨也は気づいた。
静雄もまた、歪んでいるのだと。

「トムさんに相談したら、それは恋だって言われて…だから!いっそ抱かれたら何か判ると思ったんだよ!」

「ふぅん」

トムトムうるさい鳥だな。
半眼で心中思った。

「実際見て気持ち悪がられたら、俺泣いちゃうかもしれないな」
「そ、それはねぇ!俺にもついてる、大丈夫だ」

臨也の半眼続行。
うん、なかなかの噛み合わなさだ。

「とりあえず、どこまでできるか試してあげるよ。でも俺が無理だったら即終わりだからね。」

化け物に拍車を掛けたのは俺で、
その化け物を惚れさせたのも俺で、
でも、俺はその化け物に…

あー、面白いなァ。
気持ち悪いほど。

臨也は静雄の手を取った。

「…あ?今から、か?」
「有言実行だよ。何がいるかな、ローション?ゴムもいるよね、男同士だし」
「ッ!せこいこと言ってんじゃねぇぞ!生だ!」

喰らい付くところがいちいち男らしい。

「でもよ、マジで、…いいのか?こういうのって、デートとか、手ぇ繋いだりとか先に」
「…頭ごなしに抱けって言ったの誰なの」
「だって告白くらいはストレートで行けってトムさんが」

呆れ顔の臨也に対し、静雄の百面相は忙しそうだ。

「…コンビニで堂々と買ってやろうか」

臨也得意の見下し目線だった。
静雄の身体がぴくりと緊張した。
とりあえず、ビルから出るべく、階段のほうへと足を向かわせた。

くんっ

「…ん?」
「い、臨也!」
「?なに。やっぱりやめ…」
「買うのは、ゴムだけで、いい…」

臨也のコートの裾を掴んで俯き気味で照れ臭そうに呟く静雄を、この時ほんの少しだけ可愛いと、臨也は思った。

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