ストップマイ××× 5



そのまま置かれていたカクテルグラスを手に取り、一気に飲み干す。

こと…


「彼氏の登場だ」

「い、臨也」


いつものファーコートではなく、黒いシャツに身を固めた真っ黒な男、折原臨也が立っていた。
店内が薄暗いせいか、表情がうまく読み取れない。


「やぁ、お楽しみのところ悪かったね。」

「なんでここが」

「…なめてるの?」

目を細めて見下ろしてくる。
それでも、グラスを置く手はしなやかだ。

どき


「田中さん、すみません。俺が払いますので、連れて帰らせてもらいます」


読めない微笑みにトムは苦笑った。


「いやいいっていいって。君も一緒に…と言いたかったところだが、事情知っちゃった以上は誘えねえわ」


手の平を返して肩を竦めるトム。
静雄は立ち上がる。


「トムさん、すんません…!」

「いーんだって、俺どうせこれからお姉ちゃんとこ行く予定だったしな」


ウィンクを飛ばし、次の酒をオーダーするトムの背中は随分と男らしかった。
臨也は会釈だけし、他の店員に話しかけつつ支払いを済ませているのを静雄は見てしまった。
ああいうところが何だかキザったらしくて腹が立つ。






「シズちゃん、酔ってるでしょ」


酒が身体に染みているというのに、ドアを開けた先の初夏の夜はまだ肌寒い。
ネオンが行き交う中、少し振り向き気味に口先だけ笑っていた臨也の背中から掻き抱きたい気持ちを何とか抑えた。


「まぁな。ていうか仕事…終わったのかよ」

「んーん、まだ。でもキリのいいところまで片したから今は波江の出番ってことで明日の昼まで休憩」

「…そうか」

「あんな強い酒飲んで、酔ってどうするつもりだったのかな」


腕を伸ばして身体を鳴らす臨也の身体はとても細かった。
ヴァローナの抜群の身体より、杏里の豊満な胸より、静雄にとっては魅力的だった。

末期だと、思った。

ぎゅっ…


「!」

「臨也、触りてぇ…!」

「…びっくりして心臓止まるかと思ったよ」


背中から抱きしめるとすっぽりと中に納まってしまった。
自分よりも頭一つ分背の小さな臨也が俺の恋人であり、全部だった。


「…そりゃ放って置いたのは悪かったけど」

「仕事だろ、知ってる」


臨也の背丈は顔を埋めるのに静雄に取っては丁度イイ。
細い首筋に鼻を擦り合わせた。
イイ匂いがする。


「…我慢してるの、シズちゃんだけだと思わないでよ」


少し不貞腐れた顔をしているのが声音でわかった。
路上だろうが我慢の限界だった。
次の瞬間には臨也の身体を反対に回させて唇にかぶり付いていた。

ちゅ…ちゅっ


「んっ」


口内を舌で犯すかのように味わう。
下手くそと言われようが密接でありたかった。
温かで薄い舌が自分の舌の粘膜と絡まっていると思うと更に興奮する。


「んっ、臨、也…臨也」

「ちょ、もう、場所…考えて、シズちゃ」


反論しながらも臨也の顔は情欲に塗れていた。
それだけで下肢が熱くなる。
そっと臨也の下肢に手を置くと、硬さを覚えたものが欲をもたげていた。


「臨也、もう無理だ。ほしい…ッ駄目、か?」

「外は嫌」


臨也は結構な潔癖症だと知っていたが、目の矢先であるマンションまで待てない。
汚れたって構わない。
だけど、臨也の言い分も聞きたいと思っている。

…俺の性格は実に面倒だ。


「外でなんかして、誰かに見られたらどうするんだよ」

「別に俺は…」


見られることよりも我慢する事のほうが静雄には限界だった。
だが、そう言った後、臨也の眼光が夜闇で赤く光るのを見逃せなかった。


「シズちゃんの裸を誰かに見られたりでもしたら、俺、どうするか判らないしな」

「…ッ!」


心臓を、鷲づかみにされた。
頭がクラクラする。

胸元近くをきつく握るように拳を当てる。
ドクドクと唸る心臓の音がうるさい。


「て、ていうか、お前、さっきの酒飲んで、大丈夫なのかよ?」

「あんなの水の代わりにもなりゃしないね」

「さっきは強い酒飲んでどうするつもりだったんだって俺に言ったくせに…」


臨也が面食らったような表情をする。


「…もう、変なところで記憶力がいいんだから。いつ浮気されるかわかったもんじゃない」


“浮気”ってなんだ。
反論しようとすると、手を引かれ、マンションの中へと流し目で誘われる。


「まあいい。口でされるのとするのと、どっちがいい?」

「…!ど、」


どっちも。

とは言えなかった。


「…俺がしたい」


照れながら目を逸らすと、臨也は美しく笑んだ。


「いいよ、お手柔らかに」


臨也が手を差し伸べ、静雄はそれに応える。
成人男児二人が手を繋ぎ合い、エレベーターの中に消えていった。



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