Sweet berry kiss.

※小学生の静雄&高校生臨也のお話。
R指定ナシですが捏造満載ですのでご注意下さい。





「幽ぁああああ!俺のプリン食うんじゃねぇっつっただろーがあああ!!」

ガゴォオオ!

普段なら聞くことの出来ないであろう鈍い音が、響き渡る。
…椅子が壁に突き刺さったのだ。

平和島静雄の弟、幽はランドセルをしょったまま食べかけのプリンの容器を持って素早く逃げた。
案の定、次に怒られるのは椅子を投げた張本人、兄の静雄だった。
その後ろに現れる母。
母の怒りは静雄の怪力とは違う怖さを秘めている。
壁に穴を開けたことへの代償は冷たい微笑みだった。

「しずお」
「げっ」

母も、殴ったところで自分の拳が痛くなるだけだということは昔から百も承知だったのだ。
一言名前を呼ぶだけで、静雄の動きを止めてしまう。


もう何度目かも判らない兄弟喧嘩だったが、何故かプリンに対する執着は強い。

まだ小学生に上がる前のことを思い出す。
プリンを貰ったのだ。
誰からかは思い出せない。



『君、プリン好きなの?』



「俺のプリン…」

部屋の隅っこで三角座りをしながらポツリと呟いた。
たった100円で、スーパーで買ってもらった安い味のするプリン。
だけども静雄にとってはご馳走だった。

ふと、頭を撫でられ、涙も乾いていない顔を上げると、母が100円玉を手の平に包み込むように手渡してくれた。
浮き足立って立ち上がる。

気をつけるのよ、そう言われ、スニーカーをまともに穿いていない状態で家を出る。
スーパーは直ぐ近くだった。


他の同級生に比べ、ずば抜けて背が高かった静雄は、4年生でも中学生に間違われた。
でも世で言えばまだ子供、100円玉一枚でも、ちょっとしたお金持ちになった気分になった。


少し早めの夕日をバックに、スーパーへ駆け入る。
プリンが置いてあるコーナーは静雄にとっては一番良く知るゾーンだった。

だが

「な、ない…」

丁度、100円のプリンが置いてある棚が空っぽだったのだ。
他には200円台や300円台の高いものばかりで、静雄の顔から笑顔が消えた。
ぎゅっ、と100円玉を持つ手に力を入れてしまい、平らでなくなった感触が残った。

「しまっ…」

急いで開くと、ぐにゃりと曲がった銀の塊が現れる。
息が詰まって涙が出そうになった。

立ちすくんでいると、上の方に気配を感じた。
見上げるように顔を上げると、上から覗き込んでいる学ラン姿の黒髪が目に入った。

「“君、プリン好きなの?”」
「!」

短髪で爽やかなイメージが静雄の脳に記憶される。
どこかで見たことがあるような気がした。


「誰だ、てめぇ」
「誰でもいいじゃない。君があまりにも空っぽの棚を睨みつけてるからさ、気になっちゃって」

爽やかな第一印象を壊すように、手の平を返して肩を竦める仕草が癪に障る。

「関係ねぇだろ!」
「おお、こわ!最近の子供は教育がなってないねぇ」
「いきなりなんなんだよ!俺は機嫌が悪ぃんだ!」

咄嗟に拳が出た。
しまった、と、思った時には遅かった。
こんな細い身体に自分の拳が当たったら、骨が砕けてもおかしくはない。

だが時は既に遅し、小さな拳が風を切るように重圧をかけ、黒髪の男の腹部を目掛けた。
が、

ひょいっと、男は何でもないかのようにさらりと交わし、逆に静雄の手首を掴んで流すように地へ伏せたのだ。

ドサッ

「…!?…!」
「ちょっとちょっと、当たったらどうするの?本当こわいこわーい!」
「てめぇ、今何…を!」
「んん?食べ物の恨みは怖いって言うけど、スーパーの人には罪はないんだからね」

静雄の脳内では何故か沸き立つ気持ちが溢れていた。
それを知っているのか知らないのか、男は静雄の上からさっと身体を退けると、
手に握っていた歪んだ100円玉を取る。

「うん、見事な握力だね。」
「返せよ!」
「じゃあこうしよう、これは取引だ。君と、俺のね」

膝をついて立ち上がる。
やっぱり背の高い静雄でも全力で見上げる形になった。


「取引き?」
「プリンだよ。俺が買ってあげる」
「?その100円もう使えねぇぞ、何の得が…」
「楽しいものを見せてもらったお礼…かな?どれがいい?」


眉を顰めて男の楽しげな表情を追う静雄。

「…俺、100円のしか食ったことねぇ」
「へぇ!なるほど。じゃあ美味しいって有名な店のを買ってあげるよ」

手を差し出されると、自然と静雄は手を取ってしまった。
次の瞬間我に返る。

「!知らない人には、ついて行っちゃ駄目だって言われてんだ」

咄嗟に小さく叫ぶと、振り返って男は柔らかく微笑んだ。

「うーん、一応二度目なんだよね」
「え?」
「今日は名前を教えてもらおうと思って」
「…静雄」
「静雄くんか、よろしくね」

あっさり教えると、柔らかに笑う男に静雄は胸がどきりとした。

「…ップリン!買わせてやるから、てめぇこそ名前教えろよ!しつれいだぞ!」
「臨也」
「いざ…や?」
「そう、変わった名前だろう?覚えやすいとは思うんだけどね」
「ふん…じゃあ、うまいプリン食わせろ」
「ハイ、お安い御用です」

まるで執事のように振舞う臨也。
ちぐはぐな二人してスーパーを後にする。
二人の手は繋がれたままだった。


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