Sweet berry kiss.2



「おい、いざや。…てめぇは、俺が怖くねぇのかよ?」

平気そうな声音で怖々伺うと、俄然前を見て歩く臨也は小さく吹き出した。

「君より怖い人間はたくさん居るからねぇ」
「…そっか」

下向き加減に少し安心したように呟く静雄。
夕日の光に二つの影がいつまでも伸びていた。




少し歩くと、パステルカラーのお店が目に入る。
アンティークなドアを押し、二人で中に入ると臨也はチェーンのついた財布を後ろポケットから出し、店の女性に声を掛けた。

静雄はというと、店内のアート染みた数々のケーキや甘いクッキーの匂い、
オセロのような丸くてカラフルな食べ物たちが並べられていて、お菓子の家に来たような感覚にわくわくした。

張り付くように眺めていると、気配を感じ、振り向くと臨也が既に買い済ませている状態で小さく肩を竦めた。
少し赤面して小走りでドアを出る。

その後を臨也が歩幅を大きく保って追いついてくる。

「家に持って帰るとお母さんに怪しまれるだろうから、これは食べてから帰りな」
「すげー、プリン3つもある!」
「一つは今食べて、あとの二つは家で弟君と仲良く食べるんだよ」

何故弟が居ると知っているのか、静雄にとって今はそれどころではなかった。
グラスの中に卵形に入っているキラキラした宝石のようなプリンだった。


「…プリンうまくなかったら承知しねぇからな!」
「はいはい」
「後、晩御飯が七時だから、てめぇのせいで怒られたら承知しねぇからな!」
「はいはい、判ってますよーまだ子供だもんね」

ぽんぽん、と頭に手を置かれる。
静雄は、子供と言われて頬を膨らませた。

「俺は高校生だよ」
「高校生になるとそんな偉そうになんのか。大人にはなりたくねーな」

聞こうとしたことを先に言われて早口になる。

「偉そうかな?興味があることに敏感なだけだよ」
「?興味?」
「うん」

背中に手を這わせ、行こう、と促される。
静雄はプラスチックのスプーンを袋から出し、歩きながら肌色の表面を思い切り抉った。
一気に口に含む。

「!!!!」
「おいしい?」
「…なんだ、これ!うめぇ!!!やっべー!」
「よかったねー」

フフ、と微笑んだときの臨也の細い目に心奪われる。

「なぁ」
「ん?」
「俺といざや、前に会ったことあるのか?」
「初めて会ったときもあそこでプリン見てたからね、直ぐに思い出したよ」

あそこ、と言われて先ほどまで入っていた店の方向を指差す。
もう大分と離れてしまったけれど。

「え…?」
「何年越しの夢だったのかな?あの時はまだ小学生にもなってなかったんじゃない?」
「お、覚えてねぇよ!」

頬を赤くしながら、ぷいっとそっぽを向いてスプーンで掬ったプリンを口に放り込んでいく。

「もうちょっと大きくなったら、また会おうね」
「…?」

空になったプリンのグラス容器を両手で包み込むように持つ手に力が入った。
ピシ、と亀裂が走る。

「あ…また」

やってしまった。

「もう少し大きくなれば、感情のコントロールも覚えるだろう」

本日何度目かの頭を撫でられた静雄は、子ども扱いをされて臨也を見上げて睨んだ。

「俺が高校生になったらてめぇの頭を撫でてやるからな!」
「お?」
「俺がてめぇの背なんか直ぐに追い抜いて、見下ろしてやる!」
「ほほー」

うんうん、と笑顔で頷いてまた頭を撫でられる。

「ガキ扱いすんな!」
「いやいや、ガキだから」

反論を続けようとすると、臨也の胸ポケットから携帯の音がした。
表情が少し大人びたように変わり、さっと携帯を取り出した。

「はい、ああ、俺です。折原です。ええ、…それでしたら情報はもう掴んでいますよ。」
「?」
「判りました、また後で伺います、それでは」

ぴっ

何事もなかったかのように携帯をポケットに仕舞うと、臨也は腰を下ろしてしゃがんだ。

「しゃがむと、流石に君の方が大きいね」
「友達か?」
「ちょっと違うかな」
「カノジョか?」

もう何も入っていないグラスの中をスプーンでこつこつと小突く。

「違うよ、大人の事情さ」
「だから、それがガキ扱いだって…!…ッ」

一瞬、目の前が暗くなった。
臨也の顔が離れた時にはキスをされたのだと否が応でもわかった。


まだ口の中にプリンの味が残っている。
臨也は小さな舌先をペロリと、唇に沿うように見せてきた。

「甘いね」
「お、俺のふぁーすときす…!!」
「はい、いただきました」

にこっと笑う臨也に対して、静雄はこれでもかというほど真っ赤になる。

「てめぇ!ホモだったのか!!」

「酷いなあ、俺は人間全てを愛してるからね、性別なんて二の次だよ。
 ああ、でも勘違いしないで。男をそういう意味で全てを見ているんじゃないから。ここ、重要」
「俺は男だぞ…ッ」
「まぁ、興味が勝ったというか…フフ」

ぽんぽん

静雄はそれが何かの合図だとなんとなく察した。

「…帰んのか」
「ああ、今日は君に再会できて良かったよ。」
「…」
「次会うときは、もっと楽しいことになっているかもしれないね」
「意味、わかんねーし…ッ」

立ち上がり、膝を伸ばす臨也。

「さて、君の家はそこだろう?夕飯の時間に間に合ったね」
「!いざや!」
「またね、静雄くん」

臨也の後姿が、やけに大きく感じた。
意味を含む微笑みは、まだ子供の静雄には読み取れなかった。
真っ黒な夜の方向へと消えていく。
夕日が溶け込むように日常が夜に飲み込まれる瞬間だった。


『はい、ああ、俺です。折原です。…』

(おりはら…いざや……か)


家に入る手前、プリンを全て平らげてしまったのは、弟には内緒だ。
その後、静雄の部屋にはひび割れた空のグラスが三つ並べられて飾られることになる。

二人が三度目の再開をするのは、また数年後の話―。


end.

名前なんか聞かなくても静雄の名前は知っていたであろう折原氏←
感情のコントロールは折原氏が操ればいいと思います。
そして高校生になるまで臨也のこと想って悶々していればいいよ静雄くん!


2011.6.9

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