セクスティニエ

※ATTENTION※
※性欲の強い静雄が、ひょんな事から臨也と付き合い始めるお話です。



―臨也と、付き合うことになった。

静雄は、サングラスを掛け直す必要もないのに、中指でくいっと世話しなく掛け直した。

(落ちつかねぇ…)

今日は仕事も早く終わり、これからどうするか悩んでいた。
何に悩んでいるかといえば、ひとつに決まっている。

「ああああ、畜生…!」

先日、いとも簡単にそういう流れに縺れ込んだのだ。
というのは、 いつも通りの境遇で、いつも通りの場所で、いつも通りの台詞吐いて追いかけて、投げて、捕まえて、 やっとこさ至近距離になり、胸倉を掴み、殴ろうとした時だった。


『ねーシズちゃん。いつもと違うことしてみない?』

『…ッは?』

『なんかねぇ、飽きちゃったんだよ。 毎回毎回毎回毎回の… コ レ が。 』

『気が合わねぇなぁ、俺は飽きるどころかワクワクしてるぜ?
お前を殴れるかと思うと、よぉ!』


ドゴォ!


そう叫び、振り下ろした拳は地面にめり込んだ。
拳を振りかざしている時も、臨也は口角を上げ、いつものように不敵な笑みを向けていたのだ。
気づいたときにはナイフが首筋に添えられおり、次に蝶ネクタイを引っ張られた。


『だからァ、コレが、ね。 シズちゃん脳みそまで筋肉馬鹿だから。わっかんないかなー』


何がだ、と血管を浮かせ、歯軋りと共に声を出そうとした瞬間、
唇に初めての感触を味わう。
…一瞬だった。

ちゅ

今、何を。


『…。あはっ、何?呆けてる』

『な、な、な』

『ほぅら。新しいコトした方が、楽しいね?』


ね、と目の前の男、折原臨也は嫌味な程、綺麗に笑む。
その後、"付き合おう"と、簡単に告げられた。
その後、意外にも静雄は顔を赤くしたまま呆然と立ち尽くして
しまったのだ。


“喧嘩ごっこは終わりだよ”


まるで知らない誰かに、くすくすと笑われているかのようだった。
後ろ指を差される。         


-----------


なぜならば、平和島静雄、俺は…折原臨也を好きだったのだ。
不甲斐なくも、毎夜…

(ああああ…っ)

一人で突っ立ったまま、両手で顔を伏せると、勢い余ってサングラスが浮いた。


「これからあんなこと出来ると思うと…無理だ。ぜってぇ無理」


精神が持たない。 だって、付き合うということはそういうことだろう。
自慢にもならないが、静雄は二十五歳にもなってまだセックスの経験がない。
だが、

『っ…ぁ、ぁあっ』


自慰は毎日だった。
何度達しても何度も慰めていた。
快感を追えば追うほど頭がざわつき、腰が浮く。
あまりに夢中になりすぎて終わった後、布団のシーツがボロボロになっている事も少なくなかった。

臨也が知ったら確実に引くだろう。俺は、性欲が激しいのだ。
…化け物並みに。 もう当たり前のように殺し合いを続けて、歯止めがきかなかった。
いつ好きになったかなんてわからない。
もしかしたらはじめからかもしれないし、途中からかもしれない。
…追いかけている時に、故意的に触ったことがある。
普通なら男が求めている筈の胸は男の臨也にはないし、柔らかな肉の感触だってない。
女と間逆だというのに。

だからと言って女とする機会もなかったし、先輩である田中トムに誘われてもそういう店には行く気になれなかった。
…いつでも臨也がチラつくからだ。
だが、そんなことはどうでもいいのだ。 一人でしているとき、思い出すのは―。

不覚にも、ただ、振り向いた姿だとか、ナイフを自分の首筋に宛がう瞬間とか、…そういったものを思い出しては、それだけを糧に快感を得ていた。
そのために見つけては追いかけていたなんて、まさか、笑い話にもならないだろう。
そんな静雄のことを、いくら情報屋だからといって、臨也が知っているはずもない。


「シズちゃん」
「!」

頭の中でそんなことを考えていると、真後ろから当の本人の声が聞こえた。
勢い良く振り向くと、ニヒルな笑顔とぶつかる。


「仕事終わったんでしょ?今日いっしょに食べようよ」


“晩御飯”、と小さく付け加える。
その口だけの動きでさえ、静雄を無意識に誘っているのだ。


「なっ、てめ、なんで知って」


慌てふためく静雄を見て、臨也は肩を竦める。

「相変わらず学習しないね。俺の職業知ってるでしょ」

「ハッ…リアルタイムたぁ、随分な生業だな?」

知っていてもらえて嬉しいとは微塵も思わせない静雄の態度に、臨也は余裕で流し目をした。
そして、静雄の手首を掴んで耳元で囁く。


「馬鹿だね、調べなくてもシズちゃん見てれば判るって。 言わなきゃわかんない?」

「…!」


ああ、もう。 してぇ…!


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