いけばな 4



荒い息遣いが部屋に木霊している。
静雄はシャツだけの格好になるまでズタズタに切り裂かれた。
下半身は震え上がり、天を仰いでは濡れた雫を溢れ出させている。


「も、ぅ…くれ」

「やだね」

「いざや、頼む、クソ野郎」

「やだよ」

「死ね」

「シズちゃんが死んで」


ぎゅ


「…ぁ…く!!!」

いきなり其処を掴まれ、顎が戦慄く。
立てなくなり、膝を突くと顔に突きつけられたのは臨也の高ぶりだった。

「おしゃぶりしてよ」

「くれんのか…?」

「いいよ」

「…っ」

静雄は之が好きだった。
細くて力を入れれば直ぐに折れそうな細い身体とは裏腹に、
其処だけが固く、少し色のある雄雄しいものだったから。

じゃら…

「止めろって言ったら離してね。君の顔にぶっかけるから」

「わか…んむっ」

正直、美味しかった。
最初からそう思った。
世界で一番嫌いなのに、どういうことだろうか。
今から之にどうこうされると思っただけでイきそうだった。

ぺろっ…じゅぶっ


「上手くなったね…フフフ」

「んむ、んんっ はっ」

舌を使って裏筋をなぞると決まってピクリと反応する臨也。
何故かそれが嬉しかったりする。
バニラシェイクよりも、甘い臨也の精液。
離せといわれたけど、味わいたくて懸命にしゃぶった。

「ちょっと…がっつき過ぎだよ。食いちぎる気…?ぁ…」

見上げると、少し色のある表情を一瞬だけしたのを見、
静雄は一気に下半身が熱くなって震え出した。

「臨、也…ァ」

「なぁに?名前なんか媚びうるように呼んじゃって…」

「早く…、くれ…んっう」

じゅぶ、ちゅ

「はっ・・ぁ、も、いきそ…」

目を閉じ、快楽に耐えつつ、静雄の頬から顎にかけて指先でなぞった。

「離して」

「んっ、んんっ」

嫌だ、と首を振る。

「シズちゃん」

冷めた声が降りかかっても止めなかった。


バシッ


「!」

次の瞬間、平手を食らい、右に大きく飛んだ。
がしっと髪を掴まれ上を向かせられると、目元周辺に熱いものを感じた。


「あ…っ」

「コレが欲しかったんでしょ? 変 態 さ ん 」


白濁の雨がねっとりと静雄の鼻を刺激した。
舌を伸ばして舐め取ると、やはり甘い味がする。
この味を本人は知っているだろうか。

手を離され、手枷を解かれたと思えば乱暴に四つん這いに組み敷かれる。
この瞬間も何とも言えない気分になった。

「臨也.…こ、ここに…」

両手を自らの尻へと伸ばし、押し開く。
もう、覚えた事だ。


さそいかた、を。



そうして静雄は、自由になった手で、自由を捨てようとする。
デリケートな其処を押し開かせ、ヒクリヒクリとそれを欲する。
見下ろす冷たい赤い目が堪らない。
身体を貫通して伝わってくる。
そして次の瞬間、不適に笑むその口先も。



慣らさない其処は、とてつもなく痛みを生む。
一番否定され、生きているということを感じれる瞬間だった。

だが、感触は違う場所へと降り立った。
尻に、足を置かれた。


「シズちゃん、もっと突き上げてくれない?」

「あ…?もっと、か?」

「そう、もっと」

「ぅ…」

「も っ と」

これでもかというくらい突き上げてみると、勝手にかぱりと穴が空く。
ひゅう、と空気が入りそうで入らない、何とも妙な感覚に捉われた。

「!」

「淫乱だね、シズちゃん。」

「ぁ…あ」

「きもちわるい!傑作傑作ー」

パシッとお尻を叩かれ、突き上げたままで震えていると
臨也の重みを背中に感じた。

「来てから5時間は経ったねぇ。可哀相だから、そろそろあげるね」

「!!」

「でも、俺が良いっていうまで、イっちゃ駄目だからね」

「なっ、無、理…、ぃあァアアアアア!」

ずぶずぶと上から押し広げられる。
電気が走る、この、待ち遠しかった感覚。

次第に焦点が合わなくなる。
身体のあちこちで血がかたまり、こびりついているのに、
悦楽に身を任せ、腰を振る。

「はあぁ、あっ、ぁあっ」

「可愛い声だね、…ソレ、俺しか知らない?」

「はっん、んんっ、ぅあ」

「俺だけだよね」

突きながら聞かないで欲しい。
穏やかな声質と、打ち付ける腰が真反対で対応に困る。

始めは機械的だったのに、最近では色のある攻め方をする臨也を気に掛けれるほど余裕はなかった。


「かはっ、はあぁあ!い、ざ、や…ァ!」

「んー?」

ぷちゅ、とした卑猥な水音が二人の間で激しさを増す。


「あ、は、ぁ!そ、そこっ、もっと…」

「ココ好きだね。良いよ、あげるよ」

ごりっ

「あああああああ!!」

「でっかい喘ぎ声!アハッ」

どちらかの汗か精液か判らないもので床が滑る。
静雄の膝ががくがくと震え、何度も達している間にも臨也の腰は止まらなかった。


「良いって言うまでイッちゃ駄目だって言ったのに、ダダ漏れじゃない」

「ぁ、あ・ん…はああぁあ!」


やめろと言ってもやめてくれない律動が好きだった。
やめろと言ってやめられると、静雄は多分…臨也とはこうはならなかっただろう。



静雄はだらしなく垂れた首を懸命に上げ、振り向いた。
案の定、冷たい眼差しで見下ろす赤い瞳に更に欲情した。

どうしてだろう。
こうしてる時だけ、俺は…確認することができるんだ―

臨也を…



ぐちっ


「…ぁ!!!!」



意識が遠のく中、何度目か判らない快楽と腰の打ち付けに、最後に耳に残った言葉。



「シズちゃんの身体…血と汗と精液でぐちゃくちゃで…とっても、綺麗だね」



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「静雄。今日行くか?」

仕事が終った頃、トムが酒を飲む仕草をする。
頭の中では食事よりも違うことを考えていた彼にとっては、しばし考え込む。

「…酒、飲んだ方が大胆になれますかね」

「へ?」

ふむ、と考えるポーズを取る静雄。
ぽかんとしているトムが急に笑い出した。


「なんだなんだ!女か!?静雄もとうとう…よし!今日は俺が奢るから、話聞かせろ」


斜め上の静雄の背中をバシバシと叩き、得意げな顔をする。


「で?年下?年上か?」

「あー、同い年っす」

「ほーーー。脈あるのか?」

「脈…っすか?さぁ…俺が一方的なんで」

「静雄が?奥手だと思ってたら…やるじゃねぇか」


露西亜寿司を通り過ぎ、居酒屋を探すトム。
後ろを歩く背丈の高い、モデル並みの体型をした男、平和島静雄。
なのに言動はこうだ。


「俺、実はドMなんすよ」


煙草の煙を一枚のポスターでも出来そうな仕草で吐き出す静雄を振り返り、
トムは今度こそ固まった。



「そいつは…ドSなんで、丁度いいんじゃないっすかね」

「…なるほど、ね」

トムの中で静雄を攻める女王様像が出来上がる。
無論、『女王様=臨也』だとは思いもしないだろうが。



「酔える店、連れてって下さい」

「よっしゃ、任せろ」


静雄は思い描く。
そればかりを。

言葉を交わさなくても、今日も待っているだろうと判っている。
恋人ではない、それは考えたことがない。
だが、存在を確かめる事に、恋人も友人も腐れ縁も関係ないのだと静雄は思う。


忌み嫌い合い、生まれてくる感情に気付きもしないで
ひたすら行為で消しているということに、二人はまだ気付いていない。



「…あー、してぇな。」


臨也の身体を隅々まで思い出す。
とりあえず早く口にしたい。

今夜は自分からもっと他の所も触ってみよう。
殴られるかもしれないが、尚更良い。



俺は歩く生け花。
今日も自分から、飾られにゆく。


Fin.
2010.6.18

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