アンダーザローズ4
〜秘



後ろだけでイッてしまったのは、実に不甲斐なかった。
臨也は飛び散った白濁を見て肩を竦める。


「これで俺が嫌いだって?だとしても足りないなぁ」
「なっ!」

静雄は休まる暇がなかった。
中央に何か異物を感じる。
侵入してくる何かを、感じた。

感じ、た。


ぐぷ!!

「ッぁあ、ぁああああ!!」

部屋中が響くような呻き声を上げ、圧し掛かる臨也の体重を感じる。
ひりつく下肢は元より、首根のリンパ線までもが緊張して声を上げる。

薬の所為か、裂けたりはせず柔らかくなっている其処を一気に貫かれても、唾液が口端から漏れるだけだ。
人との接触がそれほど慣れていない静雄にとっては実に強烈過ぎる快感で、…もはやこれは痛覚なのかもしれない。

「ぁああ、ひぁ…ぁ!」
「ねぇ、そんな声、生まれて初めて出したんじゃない?」

気付けば真上に臨也の眼球が覗き込んでいた。
見開かれた双眸は爛々としていて、静雄自身のカタカタと震える歯が情けなく思えた。

だが、そんなことを気にしている、余裕は、なかった。



最後まで、聞いていない言葉がある、と。
何を期待しているのか、ただ知りたいだけなのに、非常に気になって仕方がないのだ。



「中熱いね、シズちゃん」
「う、ごく、な…!ぁーっ」
「苦しいでしょ、ここ、はち切れそうだよ。もう何度も出してるのに」

くふっ、と顔を歪ませて楽しむ臨也だったが、頬に赤が散ってきているのを少しばかりは感じ取れた。
それがとても優越感で、静雄を違う満足感が襲う。
自分の中に沢山違う自分が居て、それぞれの分野を司っている状態だった。
脳内で、木霊する、何か。


 殺したい

 突かれる

 至福?

 戦慄く俺の・・・半分



それはまるで杏里が寄生している罪歌のように。
静雄もまた、暴力とは違うものに支配され始めていた。

「んっ、んんん、ぁ!」
「薬使ってるからって初めてでこんなに喘いで…君、向いてるんじゃない?」
「はっ、あっ、あああ、ちがっ」
「ねー、シズちゃん…気持ちいいんだねー。」
「やめっ、…ふぁああ!しゃべ、んな!」
「ふふ…俺も、だよ……ん…はぁ」

耳元で囁くと更に身体が跳ねた。

突いて、突かれて、ベッドがしなる。
過去より擦れ違わずして故意的に殺し合いをし、違うリズムを取りつつも領域に入り込もうとする。
お互いが居なくてはならない存在だった。
存在意義が其処にあった。


お互いそれに気付かないふりをしていた。
いや、本当に気が付いていなかったのだと今では思う。


それが今、こうして

同調し、ひとつになっている。


「い、ざ…や…ァ!!」
「もう、イきたい?シズちゃん。俺と一緒に…死んでくれる?」
「ぁ、ぁあああ!!」


嫌だ、と首を振る静雄の仕草にやられて、臨也は白目を向きそうなほど歓楽に浸り、きつく腰を打ちつけた。
中に更なる熱を感じた後、臨也は満足そうに、静雄にキスを贈る。


”死んでくれる?”


「…ッ、…ッ」


薬の効果はとっくに切れている。
先ほどの言葉は臨也が発する台詞とは思えない。
果てた余韻からか、混濁しているからか、静雄は素直に柔らかな舌を差し出して臨也の其れと絡めた。


気付けば先ほどから静雄の腕も臨也の首後ろに回されている。

「…」

この状態で力を入れすぎないようには制御していないだろう。
静雄は快楽の元、暴力が半減すると臨也は推測した。

「……んっ、まだ出てるから、待って」
「早く…抜け…!お前一人で…死ね、よ!」
「フフ…」

目を細めて微かに微笑む臨也に、少しドキッとした。


何を思っている?
読めない表情に静雄は何故か泣きそうになる。





目を閉じれば意外に睫が長いとか、
気持ちよくて縋る背中が少し女々しいとか
臨也は静雄の心中を察しつつ様々な模様を確認しながら、下で感じている化け物に対して想った。



君が一番、人間らしいだなんて…最近気付いたよ
シズちゃん…
君は本当に俺を飽きさせないね。
全く、反吐が出るよ。

これから、楽しみだね。
ずっと。


ずっと、ね。





「愛してる」
「……!」




あの言葉の続きがリアルに響くと、自然に目を見開いた。
そして驚く顔を見下ろした後、満足気な笑みを浮かべる。


「…フフフ、アハハハハ!」


平和島静雄が彼の標的となったのは、二度目の出来事。
高校の入学式以来変わらない。


嘘のない顔をして嘘をつく、それが折原臨也という人間だった。
むしろ、彼こそが化け物なのでは、と静雄は思った。
変な共感と妙な安心感が静雄を包んだ。

そんな静雄が、臨也に対する想いに気が付くのは、もう少し先の話。


『手を焼く、思い通りにならない、一番の、俺のシズちゃん。』


俺の愛し方で、これからも。

ずっと一緒だよ。
君と死ぬ、その時まで。


fin.
2010.5.25

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