「お前に特訓メニューを用意した」
「……ありがとうございます」

久しぶりに私の目の前に現れた赤い人は、それは楽しそうに伝えるのであった。

「でも私、今まで戦ったこととかないですし、リドウさんやユリウスさんみたいにはなれないと思いますけど…」
「当然だ、君は馬鹿なのか?」
「…………」

言動一つ一つで人を怒らせる天才なのだろうか。義兄がこの人を好かないというのもなかなか理に適っているとは思う。いやでも、まあこんな人でもわたしの命の恩人ではあるのだが。

「まあ君がやりたくないってなら別に構わないさ。分史に迷ったとして、いつも君を助けてくれるエージェントがいるとは思わない方がいいけどな」
「…それは、まあそうですけど」

乗り気ではないが、仕方あるまい。前回の分史世界では、時歪の因子がほぼ息を引き取っていたからこそ私が今ここにいるのだ。その時には、もう一人のエージェントも帰らぬ人となってしまったのだが。

「! そういえば、リドウさんって黒匣を使った精霊術ってわかりますか?」
「あ?そんな話誰に、…チッ、ユリウスか」
「そうですよ、ユリウスさんが前黒匣をくれたんですけど、どう使えばいいのかよくわからなくって」

ポケットにしまっておいた黒匣を取り出してリドウさんに手渡す。彼は手袋を外して、どうやら細かい調整を行っているようだった。突然、まばゆい閃光とともに強風が巻き起こった。

「まあ、こんなもんだろうな。使うのは簡単だが、まあ戦闘力ゼロの君にとっては制御もままならない。黒匣に頼る前に自分の身体を鍛えようぜ?」
「…つまり、私には無理ってことですか」
「いいや、無理なわけじゃあないけど。とりあえず今はまだ早い」

よくわからない理論で解き伏せられたが、つまるところ今あるメニューをこなしてからなら教えてくれても良いということらしい。指定された資料にざっと目を通すと、気の遠くなるようなメニューが記載されていた。私、運動部の学生とかじゃないんですが。

「んん…これで戦えるようになったとして、一体どうするつもりなんですか…」
「時機に君も分史世界の破壊をすることにはなるんだ、そうでなければ君は社長に殺されても仕方ないさ」
「社長って、一体何考えてるんですか…」
「さあね、まあ少なくとも君には骸殻の力がある。社長に目を付けられたのが運の尽きだ。こんな会社受けなきゃ良かったのにねえ」

そう言われると、どうにもこうにもやりきれない。入れば人生の勝ち組とは一体何だったのだろうか。しかし、自分で選んでしまった道がこれなのだから、誰を責める事もできないのだ。入社契約以外の仕事をしているのはおかしいと思うけれど。

「そうだな…まともに戦えるようになったら、治癒系の精霊術を教えてやっても良い」
「そ、そんなのもあるんですか…?」
「まあ、精霊術なんかより俺の医療黒匣の方が優秀だけどね」

それはそれ、これはこれだ。リドウさんの黒匣技術がとても優秀なのは、クラン社に入る前から有名すぎて黒い噂が流れる始末である。しかし、医療黒匣を用いないでも治癒作業が可能であるとするのであれば、それに越したことはないだろう。理想郷リーゼ・マクシア、発展しすぎである。エレンピオスからどのようなルートで行けばいいのか、そもそも存在しているかすら怪しいが、いつか行ってみたいものである。



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12/19
本編開始するぐらいには腐るほどリーゼ行くからね

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