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美しい花だから、手折るのが勿体なくて。
お前に見て欲しくて俺はここまで連れてきた。


見上げた空は曇天で。
白い野花は風に揺れ、耐える。
息も絶え絶えとはこの事か。
俺は刺された腹を抑えながら、野原にあった一本の大樹にもたれ掛かり、ぼうっと空を見上げていた。

「……晴れそうにねぇなぁ」

晴れたらさぞこの花々も輝けただろうに。
世界はどうにも優しく出来ていないようだ。

「おっと、……悪いな」

白い花に血が滴って、落ちる。
恨まないでくれよ。
なんて軽く言ってみたは良いものの、この体は限界を訴えていて。
幾度か咳き込んだ後に宛てがった手のひらの上には紅い花が咲いた。
ああ、そろそろか。
そう思ったら何だか笑えてきた。
目を細めて、くっと笑う。
喉を引き攣らせたような笑い方だが、それでも今の俺には精一杯。

「なぁ、キルベチカ」

空が、暗い。
闇が、襲ってくる。
もうあの衝動はない筈なのに、異様に気になって。
俺はここに居てはいけないとばかりに立ち上がろうとする。
けれども足には力が入らなくて。
ああ、少し休憩するだけのつもりだったのに。
少し休憩して、あの暖かな家に帰るつもりだったのに。
せめて。せめて。せめて。
もう一度だけで良いから。

「きる、べちか……」

――逢いたい

「呼んだか」

今さっき呼んだ名前の女と同じ声が降ってきた。
首を動かす気力もない。
その女は俺を見下ろし、しゃがみこむと俺の頬を撫でた。

「キルべチカ……」

目が合った。その金の瞳の中に俺が居る。
赤い髪に白目と黒目が反転した瞳を持った俺ではなく。
桃色の髪に瞳を持った、今にも泣き出してしまいそうな情けない男が。
愛しい女の目の前に居る。
重だるい腕を無理やり上げて、愛しい女の、キルベチカの頬に触れた。
擽ったそうに少し硬い笑みを見せる。
アレだけ鉄面皮だった女が、笑うようになったんだ。
俺がそうしたんだと思うと、何だか嬉しくて。
柔らかい頬を撫でる手に手が重なった。
暖かい。その温もりをきっと俺は生涯を終えても忘れないのだろう。

「なぁ、」

キルベチカが俺の名前を呼ぶ。
嬉しくてニヤけてしまいそうだ。
好きな女に名前を呼ばれる。
それだけで心臓が高鳴って、踊り出してしまいそうなのに。

何故だか視界が明るくなってきたのを感じて、目を細める。

「少しだけ、眠ると良い」

優しい声音が俺の鼓膜を震わせる。
それに習うように俺は重たい瞼を閉じた。

なぁ、キルベチカ。
起きたらピクニックにでも行こうか。
ウルリックも連れて、三人で。
ピクニックじゃなくても良い。
久々に三人で。
家族で、出掛けよう。
ああ、そうだ。その前に。
お前に言っていなかったことがあったな。


――­­ただいま、キルベチカ。


私の頬を撫でていた手から力が抜けたのか、ずるりと腕を地に落とす男。
その仰向けになった手のひらの上に私は再度手を重ねた。
帰ってきてくれた。それだけで満足だ。

「嘘つきだなぁ、私は」

目尻から暖かなモノが溢れてきたのをグッと堪えて、愛しい男の髪に触れ、そっと抱き寄せた。

「空があんなにも綺麗だから、お前はきっと優しい世界に行けたのだろうな」

先程まで曇天だった空が、明るい陽射しを男に向けている。
まるで迎え入れるかのようなその光に、私は口角を上げる。


愛しい人よ。
安らかに眠っていてくれ。
私もきっとお前の元へと向かうから。
きっとまた、出逢うから。


白い花々が風に攫われ、巻き上げられる。
男の桃色の髪が微かに揺れた。
その光景を私は一生忘れないだろう。
何故なら男は、とても幸せそうに笑っていたのだから。
だから私も笑うのだ。
頬に伝う雫を地面に零しながら、笑うのだ。


「おかえりなさい」


2018/05/12 16:41


年末/白い龍に陽の華


白い龍に陽の華
白龍×陽華

「白龍様。こちらの書類にサインをお願い致します」
「ああ」
「白龍さ……いえ。なんでもありません」
「なんだ。言いたいことがあるならハッキリ言え」
「……恐れながら申し上げますが、この仕事量をあと数時間で終わらせる気ですか」
「部下の不始末はトップである俺の不始末だ。片付けるのも当然だろう」
「失態をその命を以て償わせたとして、その命を奪う前にあの者に書類仕事をさせれば良かったのではないでしょうか」
「出来るものがやればいい。そして失態を犯した人間に大事な書類を任せるほど、俺は優しくはない」
「……白龍様はお優しいです」
「何か言ったか?」
「いえ。何も」
「そうか」

痣だらけ、傷だらけ、包帯だらけの私だけれども。
白龍様は私を傷付けても、見捨てることだけはしない。
それは私にとっていつ捨てられるか分からない恐怖でもあり。
それは私にとっての甘美なる感情でもある。

(お慕いしております。白龍様)


2018/01/05 15:02


年末2/冬が哭いた日


冬が哭いた日
冬彦×陽葵

「ふーゆひこくん!」
「なんだ」
「年末も休み無しでお仕事で忙しい冬彦くんの為に、気持ちを込めて作ったお弁当を持ってきましたー!ちなみに8割は憐れみで出来ています!」
「最後の一言が要らないし、あと2割は何なんだ……」
「そうですねー……強いて言うなら優しさです!」
「嘘くさい」
「嘘ですから」
「お前と話していると頭が痛くなるな」
「もー。冬彦くんったら照れ屋さんなんだからぁ」
「誰が照れ屋だ。俺は呆れてるんだよ」
「ふふん。まあ、何だって良いですよー。とりあえずわたしの任務は冬彦くんへの労りついでに胃袋を掴めお弁当を作ることですからね!任務成功です!」
「お前に胃袋を掴まれた覚えはない」
「律儀に冬彦くんの苦労を知らずに好き勝手している婚約者さんに操を立てている冬彦くんって、見ていて逆に面白いですねー」
「何を不機嫌になっているんだ?」
「何ででしょうね?」
「訊かれても困る」
「とりあえず冬彦くんは少しだけでも休息を取ってくださいねー。死んじゃったら元も子もないですから!」
「妙にいい笑顔で不吉な発言をするな」


2018/01/05 15:01


年末1/灰青の音色


灰青の音色
大河×瑠璃葉(付き合う前設定)

「年末やね!」
「何を嬉々としているのかしら?」
「いやぁ、瑠璃葉と出逢ってからほんまに幸せな1年やったなぁ!と」
「……貴方は阿呆なのかしら?」
「ええー。年末にまで阿呆呼ばわりなん?」
「当然のことを言ったまでよ。貴方は阿呆なのだもの」
「アホアホ言うなやぁ。しまいにゃへこむで?」
「好きにすれば良いわ」

まあ。でも。

「私も貴方と過ごすのは嫌いじゃないわ」
「……」
「小松くん?」
「……いつか、俺だけやなくてお前にも俺が好きやって言わせたるさかい覚悟しときや!」
「それは有り得ないわね」
「ふふん。そう言えるんも今のウチやで!」
「期待しないで待っているわ」


2018/01/05 15:00


罪/灰青の音色


あたしはニコニコと微笑みながら男子に囲まれていた。
あたしは世界一可愛くて何だって手に入った。
それでも手に入らない男がいる。
あたしの可愛さに気付かないなんて鈍い人。
だから早く気付いて貰えるように邪魔な女を消そうとした。

「…っ、ぁぐ!」

助けて、助けて。
どうしてあたしがこんな目に!

「お前だけは…絶対に許さない」

冷たい瞳であたしを見やる男。
何で?欲しいものは何だって手に入ったのに。どうして。
涙が頬を伝った。


2018/01/05 14:54

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