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『あなたはあくまで私のもの』/灰青の音色


「お慕いしておりますわ、薔薇様」

頬を赤らめて薔薇の花弁に口付けるお嬢様はとても幸せそうに微笑んでいた。
花にはそれぞれ付けられた花言葉がある。
お嬢様がお持ちの薔薇の花言葉はとてもじゃないけれども可愛らしいものではない。
黒い薔薇をうっとりと見つめるお嬢様。
お嬢様は狂われてしまったのだ。
それでも私はそんなお嬢様の側に居続ける。

(私とて、貴女様をお慕い申しております)


2018/01/05 14:37


嘘つきが吐いた嘘/過去


燃える世界の中で私はぼうっと膝に抱えた夫の頭を撫でる。
あの子は私を許した。
それがあの子なりの私達への復讐なのかも知れない。
「ねぇ、まだ生きてる?」
「…残念ながらね」
「どうして私なんて愛しちゃったの?」
「…それは、地獄でゆっくり話そうか」
「…そうね」

私達が行くのはきっと貴方が居ない地獄。
こんな時まで私は夫を憐れむことしか出来なくて、それなら地獄へくらい付き合おうと、そんな自己満足の中、私は意識を飛ばした。


2018/01/05 14:24


嘘つきが吐いた嘘


「おい、クソビッチ」
「人を見るなりビッチだなんて酷いじゃなぁい。まあ、事実だけど」

語尾にハートマークを付おけながら笑みを浮かべるセシルに俺は一枚の紙を見せる。

「この落書きはなんだ」
「落書き?」

キョトンと首を傾げるセシルは本当に知らないとばかりに眉を顰めた。
それにひとつの答えが浮かぶ。

「シフォン!お前か!」
「びぇぇぇん!」
「あら、しーちゃんったら悪戯好きねぇ。いいと思うわ!」
「お前仮にも母親だろ!」
「んふふ。父親がしっかりしてると母親はダメになるわねぇ」

ケラケラ笑うセシルの頭を軽く叩いた。


2018/01/05 13:46


冬が哭いた日


喪服のような漆黒のスーツを纏った男が私に向けて銃口の照準を合わせている。
どうして、なんて。そんな言葉は言わない。
分かっているのだもの。
私が組織にとってやってはいけないことをしたのだと。

「誰かを愛することは素晴らしいことよ」

そう仰ったボスが遣わせた私だけの死神は憐れに思うだろうか?
誰かを愛したが故に、命を落とす私のことを。

「この状況下で良く笑えるな」
「私をそう育てたのはあなた方じゃあないですか」

にこり笑った私に死神はそうだったな、とまぶたを伏せて。
カチリ、と何かが鳴る音がした。
何か、なんて分かりきっているけれども。


「嗚呼、空が蒼いですねぇ」


あの方の瞳と同じ蒼。
愛した人と同じ名前の冬の空の下。
空気を裂くような音と共に、私の身体は空へと跳ねた。


2017/12/28 22:22


幸せ


幸せになりたかった。
俺は幸せになりたかったんだ。
けれど、

「 」

恋人である彼女の名前を呼ぶ。
彼女は答えない。
くたりと投げ出された腕はピクリとも動かず、桃色だった頬は蒼白く変色していた。
もう一度彼女を呼ぶ。答えはない。
自分の両手を見れば震えていた。
嗚呼――

「ようやく俺のモノになったんだね」

こんな幸せは望んでいなかった?
いいや。きっとこれが俺の幸せ。
……そうでなければ、君をこの手で失った意味が何処にあるというのか。

「今とても幸せだよ」

愛してる。
そう呟きながら彼女の冷たい唇に口付けた。


2017/12/24 00:21

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