日めくりセンセーション
01

うららかな春。
真新しい制服に身を包んだ新入生を横目に、着慣れたジャージに顔を埋めて部室へ向かう。
学園の敷地に植えられた桜の木は満開で、今日の晴天によく映える。
4月。俺は2年になった。
1年前は俺もあんな風にパリッとした制服の着こなしをしていたのだろうか、たった1年しか経っていないのに、その時の事を思い出せない位にこの1年は濃密だった。
二個上の先輩が引退してからというもの、副主将という重大な役職をもらい、手のかかる新主将との日々は忙しく、それでいて充実していた。
春特有の暖かい陽射しにぼーっとする頭。その中でも新入部員について考える。今年は何人入るのだろうか。
部活の勧誘に勤しむ他の部の部員を視界の端に捉え、部室が並ぶ部室棟へ足を進める。
梟谷学園の男子バレー部は、東京都の中でも強豪校と言われ、毎年多くの部員が入部希望に訪れる。
勿論1年前の俺自身もその中の1人だった。
「あっ、赤葦〜」
ふと背後から名前を呼ぶ声が聞こえて、振り返ると部のマネージャーの雀田先輩と白福先輩が手を振っていた。二人ともジャージ姿でビブスを抱えたいる。
「おはようございます」
頭を下げると、二人は小走りで寄ってきた。
「今日木兎担任に呼ばれてるから先に始めといて」
「わかりました」
雀田先輩と白福先輩はその俺の返事を聞くと"よろしくね〜"と体育館の方向へ足を向けた。
その背中を見て、ふと疑問が浮かんだ。
「…あの」
「「ん?」」
「勧誘に行かなくていいんですか?マネージャーの」
マネージャー、を強調したのは、選手は勧誘せずともある程度集まるのは明白だからだ。
それに比べてマネージャーはまた別の話だ。
強豪校のマネージャーをやる女子はなかなかいない。
現に俺と同じ学年にマネージャー志望は1人もおらず、今現在もこの2人の先輩が大人数の部員をサポートしている。
去年は誰かいないか、紹介してと、声を荒げるくらい探し回っていたのは記憶に残っているが、今年はなんというかその勢いがない。
それをふと疑問に思ったのだ。
雀田先輩はその言葉にああ、と声を上げた後、白福先輩と顔を見合わせてニタリと笑った。
「そっか〜、赤葦は知らないのか〜」
「今年は心配いらないよ〜」
「?そう、ですか?」
楽しみだねーと笑いあう2人の物言いはいまいちピンと来なくて、まあ新マネジでももう希望きたのかな、と考える。
「赤葦も楽しみにしてなよ〜、今年は楽しくなるよ!」
「……はあ」
「相変わらずノリ悪いな〜」
そう言いながら俺の背中をバシバシ叩く雀田先輩を見て、これ以上聞くのは面倒だと判断して
"ではまた後で"と会釈をして部室へ向かった。

「おはようござ「ヘイヘイヘーイ!はよーっす赤葦ぃぃぃ」
「何でいるんですか、木兎さん…」
部室のドアを開けると居る筈のない木兎さんが既に練習着に着替えて立っていた。
今日から3年だと言うのに、相変わらず落ち着きのない先輩で主将だ。
「担任に呼ばれてるからってさっき雀田先輩達に聞きましたよ」
「はよーっす」
ロッカーを開けながらそう聞くと、木葉さんが部室に入ってきた。
「おー、やっぱ木兎はえーな。今日は遅れるわけにはいかねぇもんな」
「おうおうー!担任の用事もソッコー終わらせてきたからなー!」
2人の会話に答えは見えない。
先程のマネージャー2人にも感じた様な感覚だ。
思い切って聞いてみよう、もしかしたら何かあって俺が聞き逃していた事があるのかもしれない。
「あの、」
「ん?どうした赤葦」
「今日、なんかあるんですか?」
「え?入学式」
「あ、いやそれはそうなんですが」
木兎さんじゃ話にならない、そう咄嗟に判断して木葉さんを見る。
「新入部員がくる」
「えーと、まあそれもそうなんですが」
何だこれ、話が進まない。
でも聞いたところ何か大事な事を聞き逃していた訳ではない様で安堵の溜息を溢す。
とりあえず練習着に着替え、時計を確認し、そろそろ体育館に行こうとロッカーを閉めた。
それを合図に部室にいた部員もぞろぞろと移動を始めるが、木兎さんはずっとそりゃもういつも以上にハイテンションで、新入部員がそんなに楽しみなのかな、とその大きな背中を見ながら考えていた。

体育館に着くと、何人か学校指定のジャージ姿の新入部員がちらほらと目に入る。
今年も結構な人数が望めそうだが、肝心な主将はそわそわとドアの方を見たりして、いつも以上に落ち着いていない。
仕方ない、俺が仕切ろう、と集められた入部届の束をマネージャーから受け取った時、体育館の重たい扉が勢いよく開いた。

「ま!間に合いました!?」

そこに現れたのは、木兎さんの様な灰色と黒が混じった髪の毛を高い位置でお団子に纏めた、ジャージ姿の小さな女の子だった。

「!きた!なまえーっ!!」

木兎さんの大声が体育館に響き渡ったかと思ったら

「「「なまえちゃん!!」」」

マネージャーを含めた3年生が大声を揃えた。
その光景に俺達2年と、新入部員の1年も驚いて動きを止めた。
視線を一斉に浴びたその女の子は小走りで俺達の元にやってきて、姿勢をピシッと正した。

「今日からお世話になります!マネージャー希望、1年3組!木兎なまえですっ!」


「は……?木、兎……?」

珍しいその名字。
この1年で何度も聞いたし、何度も呼んだその名字。
真ん丸の金色の瞳のその彼女は、もしかしなくても、

「俺の妹だ!!」

ニカっと笑った我が主将の実の妹だった。




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