自己紹介なんて何て言えばいいのか分からないし、とりあえず名前だけ名乗っておいた。 目の前にしたクラスメイトになる人達の好奇心が入り混じった視線は正直不快感を感じてしまい、それ以上言葉を発する事はなく、何となく教室後ろの掲示板をぼんやりと眺めていた。 「席は…孤爪」 担任のそんな言葉に現実に引き戻されると、どうやら私の席の話になっていたらしい。 ゆるゆると手を挙げる気配を感じ視線をそちらに向ければ、窓から差し込む春の光にキラキラと反射した眩しいくらいの黄色に目を奪われた。 自分の髪も大概だが、孤爪と呼ばれた彼の髪もまた、なかなか教室とミスマッチで、それでいて綺麗だなって純粋に思った。 その彼の左側、窓際一番後ろという絶好の席が私の席らしく、急ぎもせずに腰掛ける。 ちらりと孤爪君がこちらを見た気がするが、よろしくとだけ伝え席に着き頬杖をつく。 窓の外は明るい。視界に入る自分の銀色かかった髪が風に靡き、鬱陶しいなあと他人事のように考えていた。 休み時間になり、騒がしくなる教室。 次の授業の話をしていたり、放課後出かける話をしていたり、雑音が凄く顔を顰めた。 何よりこちらを伺う様な視線が凄く嫌だった。 どこか静かな所へ行こうかとも思ったが授業の合間の休み時間なんてたかが知れている。 半ば諦めて読み途中のミステリー小説の続きを捲った。 昼休みになり、益々騒がしくなる教室。 今なら、と思い鞄を手に取り教室を出た。 チラチラと視線を浴び、それを誤魔化すようにiPodと繋がったイヤフォンを耳にさして、颯爽と廊下を歩く。 着いた場所は体育館裏。校舎の外は割と静かだ。 木陰に腰を下ろし、お弁当を口にする。 東京は騒がしいな。 そんな漠然とした感想を抱き、この先の学校生活に多少の不安を感じながらお昼ご飯を平らげた。 ちらりとスマホに目をやれば、まだまだ時間はありそうだ。 昨日の続きをやろうと鞄を漁りPSPを取り出し起動する。 ゲームは割と好きだ。 何より一人の空間に篭っていられる。 画面に映る、リアルな龍を只管斬りつけるが、なかなか欲しい素材が手に入らない。 ゲームも進化したなあ…なんてババくさいことを考えながらやっていると、クエスト終了の文字が画面に映し出された。 さすがに何体も同じ敵を倒すと飽きてくるものだ。 小さく溜息を吐き、立ち上がりスカートの裾を軽く叩く。 そろそろ午後の授業が始まる時間で、めんどうだが教室まで足を進めた。 午後の授業は自習らしく、先生が出て行った後一気に騒がしくなる教室。 ああ…苦手だ…なんて思い、iPodを再び装着する。 すると、隣の席の孤爪君が何やら鞄を漁っていた。 何となく気になり、ちらりと目線をやれば、先程私がやっていたゲームを起動した。 少し心が躍り、その画面をチラチラ盗み見る。 "すごい"というのが率直な感想だ。 指の動きに迷いはなく、身に纏っている防具も武器も強いものだ。 相当やり込んでいる筈。 少し話しかけてみたいな、なんて思ったが、いかんせん人見知り。 しかも今日初めて会ったばかりの人にいきなりゲームの話をされても困るだろう。 そう考え、また頬杖をつき外をぼーっと眺めていた。 窓に映る孤爪君の髪はやはり綺麗で、男の子の割には長めの髪。 俯きゲームをしているその姿は、外の世界をシャットアウトしている様で、何やら自分と同じタイプの人なのかなあと考えていた。 そういえば休み時間も、彼はワイワイ誰かと話したりせず、スマホを弄ったり、ぼーっとしていたりしていたことを思い出す。 何となくだけど、波長が合うのかもと思うと、彼なら友達になってみたいなあと思っていた。 まさかこの日の放課後、私の鞄の中のPSPが見えたことをきっかけに話しかけられるなんて思ってもみなかった。 連絡先を聞かれ、彼のLINEの画面にIDを打ち込み、私も珍しく自分から彼に連絡先を聞いた。 孤爪君は部活に行くらしく、その背中を何となく見届けていると、クラス内外問わず視線が突き刺さる感覚に陥る。 ああ…別に嫌なわけじゃないけど、苦手だ。 帰り支度をすませ、教室から逃げる様に去る。 とりあえず孤爪君にLINEを送ると、がんばれとだけ返ってきた。 何を頑張れというのだろうか。 でも転校初日に思いがけぬ出会いがあり、少しだけ明日からの学校生活が楽しみだなと思った。 帰ったらとりあえず、リオレウス狩りにでも行こうかな。 |