その子はまるで
奇妙な転校生の噂は放課後には学年に広がっていて、放課後のホームルームが終わるとチラチラと他のクラスの奴らが彼女を見に来ていた。
居心地の悪そうに眉を顰めた隣の転校生。
その表情を見て、少し自分に似ているかも…なんて漠然と考える。
部活に行こうと席を立つと、鞄を机の上に置き、机から教科書やら筆箱などをしまい帰り支度をする彼女をそろりと見下ろす。
「あ…」
思わず声が漏れてしまった。
不思議そうにこちらを見た彼女の深緑の瞳とバチッと目が合い、しまったと目を咄嗟に逸らす。
声が出てしまったのは、彼女の鞄に入っていたもの。
「…なにか」
朝、隣の席に着いた時の挨拶以降聞くことのなかった声が鼓膜を震わす。
声色から察すると怒ったりはしておらず、不思議に思っている様だ。
それもそうか。と、きっかけを作ってしまったのは自分自身だし、基本的に人見知りをする俺でもそこはちゃんと答えなきゃ、と一度背負ったリュックを机に置き中を漁る。
その様子をきょとんと見ている彼女は、朝よりも年相応に見えて小さく安堵した。
「あ…」
次に俺と同じ声をあげたのは彼女だ。
俺が鞄から取り出したのはPSPで、彼女は自分の鞄に入っている同じ物と交互に見ていた。
「…ゲームするんだ」
「…ん」
こくんと頷く彼女に抱く親近感。
俺と彼女のPSPは型も一緒なら色まで同じだった。
ゲームをする、と言うのには意外だったが、次に気になったのは何のゲームをやっているかだった。
「こ…孤爪君は…ハンターランクいくつ…」
そこまで言われてハッとした。
まず名前を覚えていたことと、その口から紡がれたハンターランクという単語。
自習の時間にやっているのを見ていたのか、彼女もそういうゲームをするのが意外だった。
「253だったかな…」
「すごいね…私まだ168で…」
意外にも成り立つ会話に自分が一番驚く。
そしてハンターランクも168となると割とやり込んでいる様だった。
「なかなか紅玉でなくて…」
「あれ出現率低いからね…」
「ん…もう尻尾切るのも疲れた」
ゲームをしてる人ならではの会話と、彼女ののんびりした口調は結構落ち着く。
「俺でいいなら、今度手伝うよ」
そうぽろりと口出すと、目の前の彼女は目を輝かせた。
「ありがとう、助かる」
すっとスマホを取り出し、彼女に渡す。
「?」
「連絡先…入れて」
用件を伝えると、彼女はそれを受け取り画面に打ち込む。
考えてみれば、女子の連絡先なんて聞いたことないや…とのんびり頭の中で考えているとスマホを差し出された。
「こっちにも…入れて下さい」
女子らしくないと言ったら失礼かもしれないが、シンプルなカバーを纏った彼女のスマホを受け取り連絡先をタップする。
お互い交換し、スマホを受け取ると廊下から虎の声が聞こえて、溜息を吐きリュックを肩にかける。
「部活だから…また明日」
「ん…頑張って」
控えめに振られた手に少し照れ臭さを感じる。
初めて出来た女の友達は、何処か自分と似ていて、波長が合う様な気がした。
一連のやり取りを見ていたクラスメイトの驚きを隠せない視線に嫌悪感を抱き、下を向き髪の毛で視界をシャットアウトした。
廊下に出るとやはり虎がこの世の物を見たとは思えない表情で狼狽えている。
「け…研磨が…嘘だろ…」
そんな虎を無視して少し後ろで様子を伺う福永に行こうと促し、部室へと足を進めた。
部室へ続く階段を登っていると、ポケットに突っ込んだスマホが震える。
なんだろうと見てみると、先程の彼女からだ。
"教室中の視線が痛い"
ただそれだけが、LINEで届いていた。
そんな事を初対面の俺に言ってくるということは、彼女も案外俺と波長が合う様な気がしていたのかもしれない。
"がんばれ"
それだけ短く返すと、すぐにまたスマホが震えた。
"部活頑張って。また明日。"
その文面を見ていると、明日が楽しみだなって珍しい事を考えている自分に少しだけ困惑したのだった。





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