新生活の決めごと

「俺はデイダラってんだ、うん」
「サソリ…」
「俺らは芸術学部の造形科に通ってる。今年三年だ」
二人はそう自己紹介をしてくれた。

あの後、皆は今度遊びにくると言ってくれて、デイダラさんはいつでも来いよ!と人の良い笑顔を浮かべていた。
皆にいっぱいお礼を言って、近いうちにお礼をしようと、心の中で決意をして皆を見送った。

「おい、なまえ」
玄関の前で車が見えなくなるまで見送っていると、背後からサソリさんの声がした。
『あ、はい!』
振り返ると、チャリンと何かを投げられ、慌てて受け取る。
手の平に収まったそれは、鍵が二つ。
「大きいのは家の鍵だ。もう一つは部屋の鍵」
『ありがとうございます!』
ぺこっと頭を下げると、ついてこいと言われ、背中を追う。
「家の中を案内する」
一階は生活スペース。
大きなリビングルームに、ダイニングキッチン。
あと浴室とトイレ。
「まあ自由に使え。」
淡々とした声に返事をして、二階に上がる。
「ここが俺の部屋だ。用があるならノックしろ」
私の部屋の右隣の部屋はどうやらサソリさんの部屋のようだ。
部屋に入ると、粘土の独特な匂いが広がった。
余計な物は置いてなく、すごく広く感じた。
「こっちがデイダラの部屋だ」
勝手に入っていいのかな、と思いながらも、サソリさんの後に続いて足を踏み入れる。
私の部屋の向かいの部屋だ。
『わ…』
部屋に入るなり何かに躓く。
なるほど、サソリさんとは対照的で、デイダラさんの部屋は物で溢れかえっていた。
「こいつの部屋は基本汚ねえ…掃除をしろっつってるんだが…」
うんざりした様な表情のサソリさんに苦笑いを返す。
それでも一緒に住んでいるなら、きっとこの二人は仲が良いのだろう。
「んじゃ、リビング行くか」
『あ、はい!』

一緒に降りてリビングの扉を開くと、スーパーの袋を持ったデイダラさんが居た。
「旦那、案内すんだのか」
「ああ…」
そういって、サソリさんはソファーにどさりと腰掛け、テレビをつけた。
「…なに突っ立ってんだ」
『え…』
「飯は今日デイダラが作る。それまでゆっくりしてろ」
なるほど、ご飯は当番制なのか。
おずおずと、サソリさんから少し離れた所に腰を下ろす。
これから色々覚えなくては。
土地勘もないから、明日は少し散策にでよう。
そんなことをぐるぐる考えていて、テレビの内容なんてちっとも頭に入って来ない。
ちらりと少し離れた場所に座っているサソリさんを見る。
彼は無表情でテレビ画面を見ていた。
私なんかがいきなり生活の中に入り込んで、迷惑じゃないだろうか。
そんなことを考え、少しの不安が胸を締め付け、思わず俯く。
「別に迷惑だなんて思ってねぇよ」
『え…』
その声に顔をあげるが、サソリさんの視線は相変わらずテレビ画面に向いている。
「迷惑なら最初から誘いやしねぇよ。もうここはお前の家でもあんだよ。つまんねぇこと気にすんな」
あぁ、どうしよう。
なんだか無性に涙が出そうだ。
私の考えていることが、どうしてわかるんだろう。
サソリさんの優しさに、グッと涙を堪えて笑顔を浮かべる。
ぶっきらぼうだけど、一見冷たい人に見えるけど、サソリさんは間違いなく優しい人だ。
すごく胸の辺りが温かい。
「なーに、旦那、早速泣かせたのか?うん?」
そこにお玉を持ったデイダラさんが顔を出した。
サソリさんの眉間に皺がより、ニヤニヤするデイダラさんはサソリさんに次の瞬間殴られていた。
その光景が何故か面白くて、私はここに来て初めて声をあげて笑った。
「それだよ、うん」
『?』
「もっと気楽でいろってことだ、うん」
『あ…』
デイダラさんは殴られた頬をさすりながらも、笑顔を浮かべていた。
『お二人とも、ありがとうございます。改めて、よろしくお願いします』
ぺこっと頭を下げると、デイダラさんが控えめに私の頭を小突く。
「そのよそよそしさは俺は好きじゃねぇ、もう俺らはお前の家族みたいなもんだ、なまえ」
"家族"
その響きに、私の目から涙が零れ落ちた。

「結局お前が泣かせてるじゃねーかよ」
「え、いや、俺のせいなのか?うん」

家族だなんて、そんな風に思ってもいいのだろうか。
こんな私が、こんな優しい人達を家族と思ってもいいのだろうか。
でもこの二人の言葉に偽りなんて感じなくて
、どこまでもいい人達なのだと改めて実感した。
はあ、と大きめの溜め息を吐いたサソリさんは、私の目の前に腰掛け直すと、着ていた服の袖で私の涙をぐいっと拭った。
「泣くんじゃねーよ」
その言葉に、その仕草に、ますます溢れ出しそうになる涙。
私はこの人達に出会えて良かったと、強く思ったのだ。
「とりあえず飯にしようぜ、うん」


『い、いただきます』
私は今困っていた。
満面の笑みで夕飯の説明をするデイダラさん。
出された料理は、もう、なんというか、匂いからしておかしい。
サソリさんをちらっと見ると、クソマズイと言いながらも慣れているのか、もくもくと食べていた。
恐る恐る口に運ぶ。
この私が箸で掴んでいるのは一体なんだ。
お肉なのか、魚なのか、それすらもわからない。
デイダラさんの説明もわけがわからず、しかし彼が作ってくれた物を無駄にはできない、と意を決して口に放り込んだ。
『〜〜〜〜っ!!』
それはもう、例えようのない味だった。
統一感のないスパイス達が思い切り口の中で反発している。
サソリさんは何故あんな冷静に食べられるのだ。
咄嗟にコップに注がれたお茶で流し込む。
『デ、デイダラさん、これは…きっと生活習慣病になりますよ』
「おいらの自信作なんだがな、うん」
これはもう食材に対する冒涜だ。
涙目で一応完食した。
早速私を襲う胸焼けと胃もたれ。
「なまえ、料理は好きか?」
不意にサソリさんに聞かれ、お茶をぐいっと飲み込んでから頷いた。
『好きですよ』
「なら助かる。俺たちは料理が全くと言っていいほどできねぇ。お前料理係な」
「旦那の料理なんて卵かけご飯とお茶漬けとレトルトカレーだぜ?おいらのはちゃんと料理として成り立ってるんだぞ、うん」
あぁ、なるほど、男二人だとこうなるのか。
しかし卵かけご飯もお茶漬けもレトルトカレーも、たまに食べるから美味しいのであって流石に交代で食べなければいけないとなると、私もきついものがある。
デイダラさんはよくわからない創作料理を出してくるし、自分の健康の為にもここは絶対引き受けよう。
『もちろんですよ!私にやらせてください』
よし、明日から頑張ろう。
明日は安いスーパーも探そうと心の中で決意をした。

食卓を囲み、これからのことを話そうとなった。
「ここの家賃は月15万。これは普通に3で割って、1人5万だ。それから食費、水道光熱費、電気に関しても折半だ。一応俺の名義で借りてるから、月末前に渡してくれりゃいい。あとゴミの日は冷蔵庫に貼ってある。」
こんな広い家で家賃が5万とは、なんともありがたい。
サソリさんの話に頷く。
「浴室、トイレは悪いが共同だ。使いたいシャンプーとかは自分で用意しろ。あと洗濯は溜まったら誰かがやる。人任せはなしだ。その、下着に関しては自分でやれ…」
気まずそうに視線を逸らすサソリさんに小さく笑った。
「旦那むっつりか?うん?」
「黙れ」
やっぱりこの2人は仲が良いなあ、と微笑ましく思う。
「課題前は大抵俺らは部屋に篭る。用があったら部屋まできてくれ。デイダラからは何かあるか?」
サソリさんが、デイダラさんのほうを見ると、彼は顎に手を当て暫く考え込む素振りをした。
あっ、と閃いた様に手の平にぽんと拳を重ねる。
「敬語はなし!これに限るぜ、うん!」
『えええ!で、でも2人は先輩ですし』
「家族は敬語で話さないぜ?」
『そんな、サソリさんまで…』
敬語使わなくていいのかな、でも2人がそう言うなら仕方が無い。
『ぜ、善処します…』



なんだかんだ、うまくやっていけそうだな、と
そっと胸を撫で下ろした






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