きっかけはいきなりで

『サイ、おはよ』
「おはよう」

大学も春休みに入り、今日はサイの家の近くの喫茶店に来ていた。
サイの家は芸術学部の割と近くで、画材店を営んでいる。
なのでサイは実家から大学に通っているのだ。

『改めてこっち来てみるとやっぱ遠いねー』
電車で1時間は、結構しんどい。
店員さんにコーヒーを二つ頼むと、愛想のいい笑顔が返って来た。
『やっぱ防音室がある部屋ってなかなかないねぇ…』
「僕の家で下宿させてあげたいけど、流石にピアノを置くスペースないしね」
『いやいや、気持ちだけでも嬉しいよ、ありがとね』
どこまでも人の良い友人に笑顔を向ける。
新学期までもう時間がない。
いい加減部屋を見つけなくてはいけない。
だが、悩んだところで物件がぽんと出てくる筈もなく、とりあえず久々に会ったサイとそれぞれの近況を話した。

『そういえば、ナルト達元気してるかなあ…。サクラとはよく連絡とってるんだけどさ』
「ナルトならこの間たまたま会ったよ。その後ラーメン食べに付き合わされてさ…」
『ふふ、ナルトは相変わらずラーメン好きだね、久々に皆に会いたいなあ』
出されたコーヒーをティースプーンで混ぜながら高校時代を懐かしく思う。
皆それぞれの進路で、元気にやってるといいなあ。

『あ、帰りにサイの家寄っていい?水彩絵の具がなくなっちゃってさあ…』
「うん、いいよ」
サイの様に特別うまい訳ではないが、私は趣味で絵を描くのが好きで、よく画材をサイのお店で買わせてもらっている。
あの画材店独特の匂いが好きだ。
お会計を済ませて、サイの家へ向かった。

『あれ?』
サイの実家の画材店が見えてきたところで、お店の前に人影が見えた。
お客さん?とサイに尋ねると、サイはハッとした顔で走って行ったので慌てて追いかける。

「すみません、今日取りにくる日でしたね!」
「ああ、入荷しているか?」
「はい、待ってて下さい。あ、なまえ、ちょっと待ってて!」
『あ、うん!』
慌ててお店の中に入って行ったサイを見送り、店内で待たせてもらうことにした。
ちらりと先程のお客さんを見ると、どうやら二人で来ていたようで、年齢は同じ歳くらい。
恐らく芸術学部の人だろう。
一人は赤髪で、もう一人は金髪の長い髪。
なんていうか、カラフルな二人だなあと思いながらも、お目当ての水彩絵の具を探す。
「お?お前も芸術学部の奴か?うん」
その声にパッと顔をあげると、先程の金髪の人が私の方を見ていた。
『あ、いえ、私は音楽学部です』
手にしていた水彩絵の具を見て恐らく芸術学部だと思ったのだろう。
音楽学部と伝えると、二人は顔を見合わせてきょとんとしていた。
『絵を描くのは趣味でして』
そう付け足すと、あぁ、と納得した表情を浮かべていた。
「音楽学部は今年からキャンパス変わるんだってな」
今度は赤髪さんが問いかけて来て、こくんと頷く。
そこにサイが戻ってきた。
「すみません、お待たせしました。これ注文頂いてた粘土です」
紙袋二つを手渡したサイをなんとなくぼーっと眺める。
「おう、いつも悪いな、うん」
「助かる」
「いえいえ、あ、そういえば先輩、この辺に防音室ついてる空いてる物件知りませんか?」
あの二人先輩だったのか、と思っていると、サイが物件について聞いてくれた。
「あぁ?今の時期じゃ空いてる部屋なんかねーんじゃねぇのか?」
「そうだな、聞いたことねぇしな、うん」
その返答に淡い期待は砕かれ、がっくしと肩を落とす。
すると、赤髪の人がチラリとこっちを見た。
「なんだ、お前部屋ねぇのか?」
『あ、はい…引っ越し先が決まらなくて』
しょんぼり肩を落とすと、今度は金髪の人が口を開いた。
「じゃあお前うちくるか?うん」
『へ?』
今うちくるか?って言った?サイの顔を見ると、サイも驚いた顔をしていた。
呆気に取られていると、目の前の二人の先輩は何やら話しを進めている。
「なあ、旦那、いいよな?部屋一部屋空いてるし、あそこ防音室だったよな?」
「おいデイダラ、何勝手に決めてんだ。相手は女だぞ?そんな簡単に決めるなよ」
『あ、あの…』
話が見えないため、おずおずと口を開く。
「あぁ、オイラ達、二人で住んでんだ。家賃折半してな!」
あ、なるほど、って納得はしたが、こんな初対面の小娘になぜそこまで言ってくれるのか。
「おい、お前。部屋は空いてる、防音室だ。お前さえ良けりゃ使っても構わねえよ」
『え、あ、、えと…』
暫く悩んでいると、サイが口を開く。
「この際お世話になっちゃいなよ、しかも防音室だしさ。この二人、うちの常連さんなんだけど、二人ともいい人だよ」
サイを見上げると、にこっと笑ってくれて、それだけで安心した。

『じゃあ…お願いします!』

「おう!」
「ああ」


住むところが漸く決まりました。
話が出来すぎて、ドッキリか何かじゃないかと心配になるが、渡された住所の書かれたメモを見て、安堵の息が零れた。

新生活が、はじまる


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