『困ったな…』
桜の蕾が大きくなりはじめ、空気もどこか暖かい。
季節は春になろうとしていた。
プリントを片手に溜息を吐く私は、学校を後にとぼとぼと歩いていた。
重たい足取りの原因は、私の通う大学のキャンパスの場所が変わるという内容が記載されたプリントにある。
私の通う大学は、割と大きな芸術大学で、学部が多い。
大まかに分けると芸術学部と、音楽学部。
その中で多く科が分かれている。
芸術学部と音楽学部はキャンパスが遠く、同じ大学といっても顔を滅多に合わせることなく一年が過ぎた。
そういえばサイが通う芸術学部、工事してたって言っていたのを思い出す。
なるほど、私の通う音楽学部が移動になるための工事だったのか、と今更思い出し、頭を抱えた。
それぞれのキャンパスの距離は電車で1時間。
通おうと思えば通えるが、残り三年間その通学距離はどうも億劫だ。
やっと住み慣れてきた新しい街。
慣れてきた一人暮らし。
夕焼け空を見上げ、また一つ大きな溜息を零した。
バッグから携帯を取り出し、ボタンを押す。
無機質な呼び出し音が数秒流れ、通話の相手が電話にでた。
「あれ?なまえ、どうしたの?」
相手は少し驚いた声をしていた。
『サイ、どうしよう…』
電話の相手は芸術学部に通う、同じ高校の友達のサイ。
私の声を聞いて、サイはあぁ、と妙に納得をした様子だった。
「キャンパスの話?」
『うん…どうしよう…』
「なまえの家からだと通学大変だよね、こっちに引っ越しておいでよ」
『そんな簡単に…引っ越しってお金かかるじゃん…』
「でもなまえの学部の場所よりも、こっちの方が家賃の相場は安いよ」
『そっか…なら貯金崩して引っ越そうかなあ…』
せっかく見つけた気に入った物件。
防音室がついている部屋は探すのが大変だ。
一年前に友達も一緒になって探してくれたのに、まさか一年で引っ越さなくてはいけないなんて。
何度目かわからない溜息が零れた。
サイも学部の近くの物件探しておくよと言ってくれて、本当に私は友達に恵まれているな、とつくづく思い電話を切る。
ぐっと背伸びをし、携帯をしまう。
肌をなぞる風は柔らかい。
春はもうすぐそこにきていた