――――ねえ、誰かいるの?
――――いるのなら返事をしてよ、姿を見せてよ。
――――そんな人々の声が、聞こえる……
その少女は、ひたすら落ちていた。
彼女の背中には純白の翼が生えていたが、それを動かして体勢を整えることができるだけの力が少女には残っていなかった。加えて少女本人は気づかなかったが、彼女が落ちていくのに伴って、1枚、また1枚と羽が剥がれ落ち続けていた。
白い羽を撒き散らしながら、少女は落下を続ける。彼女は不自然に伸ばされたままの右手で必死に何かを掴もうとしていたが、当然ながらその手が掴むのは空ばかりだった。
(どうしよう、このままじゃ……!?)
焦っていた少女の体に、突然不自然な圧力がかかる。
一瞬遅れて落ちていく速度が上がったのだということに気付いた少女の目に映ったのは、どこか見覚えがあるような崖と滝だった。
(まずい、落ち……っ)
当然のことではあるが、少女に受け身などを取る余裕があるはずもない。次の瞬間、少女を襲ったのは激しく体を打ちつけたような痛みだった。
それが消えないうちに視界は透明に歪み、鼻の奥に何かを押し込まれたような不快な感覚に陥る。先ほどまでとは比べ物にならない負荷の連続に、元々限界だった少女の意識が耐えられるはずもなかった。
朦朧とする意識の中、少女の脳裏には次々と景色が浮かび始めていた。俗に走馬灯と呼ばれるそれは、少女が見聞きしてきた様々なものを浮かび上がらせては消していく。
空に浮かぶ故郷、共に修業を積んだ仲間たち、病弱だったけれど心優しい親友、そして――――
(し、しょう……!)
1枚の羽と光る輪が水面へ向かっていく光景を最後に、少女の意識は完全に途切れた。
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