小鳥達の囀りに、口吟(クチヅサ)みたくなるバイオリンの音色。
遠くまで届くのはピアノに混じったクラリネットの音だろう。

酔いしれそうなハーモニーに耳を傾けると、瞼の裏には幻想世界が現れる。
優雅で安定した音色にリラックスをする心と身体。


「―――……」

音色と身体が同調した頃、スゥ…と小さく息を吸い込む。風に混じった緑と土の匂いが、深く吸い込まれ脳裏に描かれた世界へと誘う。
無垢な表情で長い睫毛を揺らす少女の奥にある瞳は朧げていた。

そろそろ意識が遠く離れて行きそうになった時、少し掠れた声が聞こえてきた。

未だ、焦点の定まらぬ月色に輝く瞳が、不思議そうに眺める人物の姿を捉える。

目の前に赤茶色の髪に白髪まじりの老いた女性が佇んでいた。
その存在を認識した少女の脳はだんだんと覚醒していく。


「おいと、お嬢さんや。
聞こえているかい?」

「あ…へ…?」

女性のこの問い掛けは少女を心配しての事だった。
不安に揺れたエメラルドの瞳がこちらを伺うように見ている。
間抜けな声で反応した事により、不安の色から安堵の表情へと変わっていった。


 



 
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