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五人と別れ、二階へと上がり、自身があてがわれた部屋、といっても春との相部屋に入り、戸を閉めた
桔梗は後ろ手に戸を閉めた体勢のままでその場にずるずると座り込んだ
そのまま両手で顔を覆う
無性に悲しくて、泣き出してしまいそうだった
だが、下に五人がいるために声は上げられない
死んだなど、そんなことは分かっていた
なにせ、この時代はあの時から四百年経っていたからだ
それは、春との会話からなんとなく推測はついていた
桔梗は自分がどうやら戦国時代と呼ばれた1600年前後の人間であることは確かであると理解していた
何故なら、春が伏見からの帰りに豊臣秀吉について教えてくれた時、その名前を私は確かに知っていて、懐かしいと感じた
伏見城に行く前はそう感じなかったのに、だ
伏見城(とはいっても別の場所)に行って変わったことといえば、記憶が少しだけ戻ったということだ
その状態で懐かしいのなら、過去に関わりがあった人物なのだろう
目を閉じると少しずつ、記憶が落ちてくる
塞き止められたモノがゆっくりと零れる様に
はらりはらりと
黒髪の男性、真田信繁が立っていた
彼は、目を伏せながら言い聞かせるように言った
―――――――――石田殿はもう此処には来ません
はらり、と白い花弁が地に落ちた
―――――――――彼は秀吉公に忠義を尽くしたのです
ぽたり、としずくが地に落ちた
あの時、あの場所で彼からもたらされた知らせが、誤報であってほしいと願ったのに
真実は残酷で…
もう二度と触れ合うことも、言葉を交わすことも叶わないのだと
心がただただ軋んで悲鳴を上げた
その中でただ一つだけ、願ったことがあった
君は苦しまずに終えれたのだろうか、と
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