「ただいま戻りました」


伏見を出る頃より日が傾き、辺りが茜色に染まった頃に家に辿り着いた

春が玄関の戸を開けると、彼女の胸に小さな誰かが飛び込んできた


「おかえり、春、桔梗」

「た、だいまです…はな」


飛び込んできたはなに驚きつつも言葉を返す


「遅くなってすまない」


桔梗の言葉に首を横に振るはな


「大丈夫。 …桔梗」


はなは玄関で履物を脱ぐ桔梗の背に向かって声をかけた


「ん、なんだ?」


名を呼ばれたので、脱ぎ終え立ち上がった桔梗ははなに近づいた


「…なんでもない。いこ、待ってるから」


しかし、はなは何も言うことはなく居間へと向かう

奇妙な行動をとったはなに疑問を持ちながらも二人が続いた


「こんな時間まで何をしていたんだ」


居間に入ると待っていたのは仏頂面の橘だった

桜の姿が見当たらないのは、彼が帰ってくるのが遅い春の代わりに夕飯を作っているのだろう


「ごめんなさい橘、後で説明します!」


それに気付いた春が慌てて台所へと駆けて行った


「遅れたのは私に非がある。春を責めることはしないでやってほしい」

「…なにかあったのか」

「伏見、というところに出かけてきた」

「伏見…。何故そこに行った?」

「春が私に縁のありそうなことを見つけてくれてな。それで行って来た」

「夕餉、できたぞー」

「すみません、桜。お任せしてしまって…。致佳人君も有り難う」

「い、いえ! 俺なんて全然…、ほとんど桜さんがやってくれましたし」


手に夕飯がのったお盆を持った桜が居間へと入る

続いて春、そして少し前にこの家に訪れた致佳人が入ってくる

その致佳人が居間にいる一人を勢いよく指差して叫んだ


「あっ!? あの時の!!!?」

「五月蠅い。いちいち叫ぶな」

「人に向けて指差してはいけませんよ」


致佳人の行儀の悪さを指摘すると、彼は慌てて謝る


「私が何か?」

「…え? 俺のこと知らないってことは人違い? でもあの時の人とそっくり…」


ゆっくりと指を下して気の抜けた声を出す致佳人


「致佳人君、桔梗を知ってるんですか?」


致佳人の反応に春が少し期待して尋ねる


「え、はい。この人かはちょっと自信ないんですけど去年の夏に…」

「致佳人。ごはん冷めるから食べよ」


だが、致佳人が答える前にそれをはなが遮って促した


「え…。あっ、はい」

「まぁ、はなのいうとおりだな。致佳人君は何処かに行っちゃわねぇし、先に食べようか」


はなに同意した桜が食卓につき、他の者もそれに続いた


「そう、ですね…。致佳人君はここに住まわれるそうですよ桔梗」


その通りだと思った春も席につく


「そうか、よろしく」

「は、はい! よろしくお願いします!!」


経緯は分からないが、ここに住むということは同居人となるので彼に挨拶をした

だが、なぜか声をかけられた致佳人は背筋をピンと張って言葉を返す

そんな彼の様子に桔梗は首を傾げる


「私も居候だからそのように畏まった態度をとらないでほしい」

「は、はい!」

「はは、致佳人君は面白いねぇ。そんなに桔梗が怖いのかい?」


そんな二人のやり取りを面白そうに眺めていた桜が口をはさむ


「そ、そうじゃないです! そうじゃなくて、なんか畏れ多いというか…。ほんとに怖いとかじゃないです!!!」

「ふふ。あぁ、わかった」


致佳人の必死の弁解が面白くてつい笑ってしまう桔梗


「……」


そんな彼女を見て固まる致佳人に橘が怪訝そうに声をかける


「何を固まっている居候」

「は、はいぃぃ!」

「ほらほら、さっさと食っちまおうぜ」


桜が再び促したことにより、橘は致佳人に追及することをしなかった

いつもより人数が増えた食卓で、全員が手を合わせる


「いただきます」





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