3


「――ということなんです。あの、だから彼女をここにおいてもいいでしょうか??」


台所の冷蔵庫やらに買ってきたものを仕舞った後居間に行き、居間にそろっていた桜、橘、はなに桔梗には記憶が無く、行く宛も無い事を説明した

説明している間彼らは一言も話さず、じっと春の隣で黙って座っている桔梗の様子を伺っていた

射すような視線を向けられていても桔梗は大人しく座っていた

説明をし終わり、同居人たちの反応を待つ


「俺は反対だ。…得体がしれない」


眉間に皺を寄せ、腕を組み桔梗を見たまま橘がそう言った


「橘、それは違います。彼女は得体のしれない者ではありません。桔梗です」

「うん? 春、それはちょっと違うんじゃないかい」


春の少しずれた反論に桜がツッコんだ

橘は真っ向から反論してきたが
桜はニコニコ笑顔でいる


「そんな冷たい事を言わないでください橘。彼女は本当に行く宛がないのですよ。このまま外に放り出せと言うのですか? それはあまりにも酷すぎます」


橘の眼を真っ直ぐと見据え、春は思ったことを伝えた

真っ直ぐと相手の眼を見て話す彼女の眼には力があった

春の真っ直ぐな心がわかるからだ

その眼を見返し続けることが出来なくなった橘が目をそらした


「とりあえず、本当に記憶が無いのかってことを確かめさせてもらってもいいかい??」


橘の行動を見た桜が小さく笑って仲裁に入った


「橘、もし本当に何も覚えてないってんなら間者じゃないってことになるだろ? ってなわけでちょいと覗かせてもらっても良いかい??」


桜が桔梗に尋ねる

今まで黙ってやり取りを聞いていた桔梗は橘と桜を見てから了承の意を示した

それを見た橘が少しまだ不満そうな顔をしながら立ち上がり、春の隣に座る桔梗の前に片膝を着いて座った


「目を閉じ、構えるな。楽にしろ」


桔梗は言われたとおりに目を閉じ、力を抜いた

橘の指が桔梗の額に触れる

前に致佳人に試みた記憶を焼くのではなくその逆、視るのだ

橘が触れたところから小さな波紋が広がった




橘は白い空間に居た

何もないまっさらな空間

どうやら彼女の記憶ないというのは本当らしい

仮にもし彼女が嘘を吐いていて、記憶を失くしていなかったとしたらこの白い空間は存在しないからだ

もし記憶があれば生まれてから積み上げてきたもので空間が埋まるはずなのだ

だが、此処には何もない

この白い空間は彼女が何も覚えていないという証拠というわけだ

何もない空間にこれ以上いても仕方がないと考えた橘は意識を浮上させようとした

だが、その前に奥の方に何かがあるのに気がつき、戻るのを中断し其方の方へと向かった

其処にあったのは花だった

白い花だ




「橘、どうでしたか?」


桔梗の額から手を離した後、黙っている橘に春が尋ねた


「その女の中には何もなかった。…記憶が無いというのは本当だろう」

「橘の透視でも視えないなら本当ってことだなぁ」


桜は机に頬杖を着きながら言った


「ああ。だが一つだけ視えたものがあった」

「橘、それは本当ですか!? それで一体何を…」


心の奥底で見つけたものなら記憶の手掛かりになるかもしれない


「白い花だ」

「白い、花ですか? それはなんという花でしょう?」

「知らん。俺は花に詳しくはないからな」


桔梗の記憶の手掛かりになるものがあるかもしれないと思い、嬉しそうな声をあげた春だったが予想外のものに首を傾げる

彼女の記憶の奥底にあったのは名前のわからない花だけ


「白い花ねぇ。どうだい? 心当たりはねぇかい??」


桜は桔梗に尋ねるが彼女は申し訳なさそうに首を横に振った


「そうかい。別にそう気に病みなさんな」

「桔梗の記憶の手掛かりにはならなかったのは残念でしたが、とにかく桔梗が嘘を吐いていないということはわかりましたね」

「そうだなぁ。橘の透視でも視えないんじゃあそういうことだなぁ」


そう言って桜はチラリ、と橘を見やる

桜からの視線を受けて、橘は桔梗の隣にちょこんと座っているはなに視線を向けた

橘からの視線の意図に気付いたはなは答える


「はなは、桔梗がここにいたいならいいよ」


じっと隣に座る桔梗の瞳を見るはな


「はながそう言うなら…」


渋々といった様子で橘も桔梗の同居を認めた

桜も二人が反対しないなら構わない、と言って了承してくれた


「それじゃあこれからよろしくなぁ。俺は桜。こっちは橘で、そっちがはな」

「すまない、世話になる。私は桔梗だ。よろしく頼む」

「よかったですね桔梗!」


皆に了承してもらえたのがよほど嬉しかったのか、春は桔梗に抱き着いた

隣にいたはなも真似して二人に抱き着く


「はは、仲良いねぇ」

「まったく騒がしい」


そんな三人を桜は愉快そうに笑い、橘は呆れたように笑って見守った




[ 9/44 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -