「ここが入団試験を受けれるところらしいわね」


港町から随分と歩いたところでお目当ての場所に着いた

エルティは少し前に進み出て、目の前の建物を見た

クラリネス王国の剣であるセレグ騎士団基地

国を守る騎士たちのいるところである

建物自体は石造りの大きなものだった

そこからは時折忙しそうに、制服を着た兵士が出入りをしている


「これはまた、うちとは違う造りをしてんだな」

「んー。まぁ国によって特色があるからねぇ。さて、中にはいろ!」

「あぁ、そうだな」


エルティの脇から二人が進み出てきて、競う様に目の前の建物、兵士の詰所に入っていった


「どうしてなんでもかんでも競うのかしら、あの二人」


そんな二人を不思議そうに見つめながら、後を追った

詰所の中には見回りの兵士や、事務仕事で歩き回るもので多かった

三人はどの人間に話しかければいいのか考える


「この場合、誰がいいのかなぁ??」

「そうね、なるべく階級が高い人間が妥当なんだろうけど…」

「どいつが高いのかわかんないな」


自分たちの国では階級ごとにバッチが用意されてはいるが、ここの国でもそうとは限らない


「適当にそこら辺のすごそうな人に声かけてみよ! きっといい感じに偉い人にあたるっしょ」

「なんなんだその適当なやりかた」

「でも現状ではそうするしかないわフェレス。さぁ、いきましょう」


渋るフェレスを放って、エルティとメフィスは手近にいる兵士へと向かっていた

そこそこ歳のいった、身なりが少し豪奢な兵士である


「お忙しい所申し訳ございません。少しよろしいでしょうか??」

「ん? 君たち、なにかあったのか??」

「こんにちわ! 入団希望者です!!」


軽く片手を上げてそう言うメフィスを見た後、兵士は隣のエルティも見やった

女性だからか、はたまた珍しい色彩だからか、それは好奇な視線も入っている


「入団希望…? 君たちがか??」

「そうでーす。というわけでどこで試験受けるんですか??」


自分の要求を受け入れさせるためには相手に考える時間を与えないこと

なのでメフィスは早々と会話を進める

考える時間を与えてしまっては、女性ということもあるし、断られるかもしれない

効果あったのか、たいして兵士は反対の素振りを見せなかった


「あ、あぁ。少し上の者と話す必要があるからここで待っていなさい」

「はい。お願いします」

「了解! …行っちゃったねー。待ってろって言ったってここに居ればいーのかな?」


兵士が奥に姿を消すのを見届け終えた頃に、離れたところで様子を伺っていたフェレスが歩み寄ってきた


「ここに突っ立ってると目立つし邪魔だし、いいことねーから端によけるぞ」

「そうね、それが良いと思う」

「はいはーい、そうと決まればさっさと脇によける」


三人の色彩は青灰色に天色

ただ立っているだけで目立つ三人が、通路の真ん中にいるだけでかなり目立ってしまう

人目を避けるようにメフィスが兄の背を両手で押しながら通路の脇によける

その途中で彼女が突然声をあげた

それに驚いたフェレスが妹に不満げな声で尋ねる


「んだよ急に…」

「だってさ、ほらみてみて! あそこの黒髪の男かっこよくない??」


瞳を輝かせる妹に彼はまたかという表情をしてから彼女が指差す方向を見た

そこにはなるほど確かにいい男と世間で言われるであろう男が立っていた

少し癖のある髪に長い前髪、そしてややつり上った瞳の細身の若い男

確かにかっこいいがそれをなぜ毎回自分に報告してくるのか


「お前な…、良い男を見つけるたびに俺に報告してくんじゃねぇよ。興味ないっつーの」

「え? ないの??」


真顔で聞き返してくる妹に軽く殺意をおぼえた兄はこぶしをわなわなと震わせた


「…ぶっ殺すぞお前」

「そこのおにーさん! お名前なんていうんですかー??」


怒りをみせるフェレスをスルーして、メフィスがその青年に駆け寄って声をかける


「おいこら!」


こんなところで変に目立ってどうするのか

男に声かけるメフィスを止めようとフェレスが手を伸ばすが遅かった


「…誰きみ?」


突然声をかけてきた見知らぬ女に警戒をする青年

まぁ、当然の反応である

だが、メフィスは臆することなく話しかける


「はじめましてー、メフィスっていいまーす。おにーさんは? 名乗ったんだから答えてほしいなー??」

「変な子だね、いいよ。僕はヒサメ。…で? 何か用??」

「用はないんですけど、ヒサメさんかっこよかったのでお名前知りたいなーって思って」

「ふーん」


これ以上目立ったら色々と面倒なことになりそうだと考えたフェレスが妹の肩を後ろから乱暴に掴む


「お前は何してんだよ! こんな風に目立つんじゃねーよ! つーか毎度毎度ナンパすんな!!」

「いーじゃん別に〜」

「よくねー! ほら行くぞ! すみませんでした、そこの人」


メフィスを引きずるように元の場所に戻る

なんやかんやと騒いで去っていく、よく似た若い男女を取り残されたヒサメと名乗った男が呆然と見送る


「そこの人…」









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