「鐘の音だわ。ラジ王子が御到着されたみたいね」


正午に近い頃、王城の鐘が鳴り響いた

茶会の準備を手伝っていた手を止め、エルティは王城の鐘を見上げた

今頃は正門が大きく開かれ、クラリネスの王子がラジ王子を出迎えている頃だろう


「いよいよ、この国の王族を見ることになる」


この大国を統べる王の子はどのような方々なのだろうか

人の噂や見聞を聞いたことはあったが、やはり実際に自分の目で見てみたい

同じ王の子として、純粋に興味があった


「衛兵さん、こちらもお手伝いしてくださいますか?」

「あ、はい! もちろんお手伝いいたします!」


侍女の方に声をかけられ、作業を再開させる

中庭の装飾や料理を並べる作業を手伝い、小1時間ほどしたところで、衛兵は配置につくように命じられる

すべての人間が配置についたところで、王城から良い身なりをした者達が出てくる

クラリネスの貴族たちだ

金髪と黒髪が多い

出てきた貴族たちをぼんやりと見ながら思った

エルティ自身の髪色が特殊だからか、金や黒ばかりの人たちがなんだか珍しく感じる

正確にはエルティが奇異であるだけなのだが

さて、この中にこの国の王族がいるはずなので、あまりキョロキョロしないように視線だけを動かしてそれらしい人を探してみる

それぞれがワインやらなんやら飲み物や食べ物を手にして談笑をしている

談笑というか、貴族同士の交流を深めて繋がりを作るといったことがメインではあるのだが、そこは置いておく


「いた…かも」


ほかの貴族に比べて明らかに雰囲気が違い、挨拶の為に近づく人の多さも桁が違う人がいた

金髪の綺麗な人

傍らの黒髪の人はなんか弱弱しい雰囲気というか、金髪の人の雰囲気に押されているように感じる


「…!?」


そんなに露骨に視線を向けていたつもりはなかった

なのに、金髪の人と一瞬視線が合ってしまった

偶然にしては可能性が低い

貴族からしたら衛兵みたいな者がいるのは当たり前すぎて気にすら止めないはず

ましてや用もなしに視線を向けるなんてありえない

露骨に視線を向けていたなら兎も角、ほんの少しの視線に気づいた…?

明らかに只者じゃなくて、あの人がクラリネスの王族なのだと思った

恐る恐るもう一度視線を向けてみるが、こちらを見る気配はない

本当に偶然だったのではないか、そう考え直す頃、金髪の人が少し離れたところにいる銀髪の男性に声をかけた

話し声はあまり聞こえないが「ゼン」と呼んだことだけは聞き取れた

銀髪の彼の名前だろうか


「…?? 外側に気配が留まってる…? 誰かがいる?」


ゼンと名前を呼ばれたときに、一瞬だが気配が漏れた、気がする

気配を読むのはあまり得意ではないので自信はないが、不逞の輩である可能性も無視できない

エルティは何気ない顔をしてさり気無く気配を感じた生垣の方へと移動する

自分の持ち場より、金髪の男性たちの近くだ

生垣の外にいる人はこんなところで何をしているのだろう

敵意のようなものは感じられないし、本当にただ聞いている、だけに感じる


だが、一応確認せねば、とそこに人がいることを確かめたエルティは持ち場の近くの衛兵に少しの間持ち場を離れることを伝えてから、会場を後にした

先ほどの気配がした方に念のために足音を消して向かっていると、男女の小さな話し声が聞こえた

少し警戒を強めて近づいていくと、少しずつ話し声が鮮明になっていった


「−なんか冗談みたいな話してるけど……。かんじ悪いな。お嬢さん?」


男性の声だ

どこかで聞いたことがあるような気がする

それに対して、やや間をあけて女性の声がする


「え? …あ、ごめん。休憩終わるから戻らないと…」


大分近づいたところで姿が見えた

真っ赤な髪の少女に、短い黒髪の男性

二人とも意識を別の方に向けているからか、近づくエルティに気が付く様子はない

赤髪の女性が立ち上がった。その顔色は悪く、今にも倒れてしまいそうだった

具合が悪いのだろうか。あまりにも悪そうなら医務室に連れていく必要があるだろう

だが、まずは何者なのかはっきりさせなければ


「待ちなさい。貴方たち、このようなところで何をしているのですか? 返答によっては許しま…」


やや離れたところから様子を伺っていたので、あちらの二人はエルティが声をかけるまで気が付かなかったらしい

二人とも警戒をあらわにエルティの方へと向いた

エルティはその時にはっきりと二人の顔を見た

赤髪の少女は完全に知らない顔だったが、黒髪の男性の方は見覚えがあった

クラリネスに入国した際に酒場で情報収集していた時に出会った人


「…あれ? エルティ姫? なんでこんなところに」

「オ、オビ…?」

「え? 知り合い?」


そう、オビ

ひらひらした掴みどころのない人である


「いや、つーかエルティ姫って城の衛兵だったわけ?」

「い、いえ。そういうわけじゃないけれど……」


お互いがお互いに相手に驚きすぎて、今の状況を理解出来ずにいる

二人で戸惑ったようにしていると、赤髪の少女が恐る恐る間に入った


「あの……、衛兵さんはオビとお知り合いですか?」

「え、ええ。そうね、顔見知り程度だけれども……。私はエルティと言います。あの、貴方は?」

「宮廷薬剤師見習いの白雪です。よろしくお願いします、エルティ……さん?」

「こちらこそ、白雪…さん?」

「いやいやここで自己紹介? それもいいけどお嬢さん、仕事始まっちゃうんじゃなかった? 送るよ」

「あ、うん…。でもこの人は?」

「大丈夫、お嬢さん。ということでエルティ姫、俺らは怪しくないから見逃して」

「え、どういうことなの?」


確かに、オビは怪しさしかないが、赤髪の少女、白雪は悪い人には見えない

それに、仕事ということは城仕えをしているのだろう


「わかったわ。けれど、オビ。次遭った時にいろいろと説明してね」

「了解。じゃ、お嬢さん行こうか」

「う、うん」


二人が去っていくのを見届けた後、エルティは念のために場の確認をした後、持ち場に戻ろうと踵を返した


「――――…!?」


その時、背後の生垣の先、つまり茶会をしている場所が騒然とした

何事かと思ったエルティは生垣のそばに戻り、中の様子を聞こうとした


「今の発言は……」

「気絶しそうだね」


かろうじて男性二人の声だけは聞こえたがこれだけでは何があったのかわからない

とりあえずは襲撃にあったとかいうことではないみたいなので安心した

状況を知るためにもエルティは早足で中庭へと戻った







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