「おつかれ、エルティ!!」


戻ってきたエルティと待っていた二人が軽くハイタッチをして勝者を労う


「ありがとう。次は二人の番ね、頑張って」


二人に微笑みかけて、エルティがエールを送る


「任せて! とゆーわけでいってきまーす!」


自信満々に胸を叩いてメフィスが中央へと駆けて行く


「おー、せいぜい頑張れや」


そんな妹をフェレスがヒラヒラと軽く手を振って送り出す


「メフィスに関しては心配いらないわね。私たちの国でも屈指の強さだもの」

「まーな。あれと血が繋がっているということが時々不思議に思える」


三人の国は小さな平和な国だが、他国に攻められた時を想定して騎士団が存在する

数こそ少ないが、個々の力が秀でており、国外でも結構有名だ

メフィスはその中でも特に実力が高く、若くして王族護衛に就けた人物だった


「他人事みたいに言ってるけれど、フェレスも強いじゃない」

「…俺が? 全然、腕っぷしで誇れる気がしねぇよ。ほら、雑談してるうちにあいつの手合せ終わったぞ?」

「えっ!? …ほんとだ」


フェレスが指差す先には、余裕の表情を浮かべたメフィスと、対戦相手であろう兵士が信じられないという顔をして立っていた

彼女と兵士の間の地面は亀裂が入っている

メフィスは剣を持っていたが、兵士の方は剣を持っていなかった

いや、正確には持っていたが、彼が持っているのは剣ではなかった

彼が持っているのは剣の柄だった

刃の部分はなくなっていたのだ

その刃の部分は彼から遠く離れた地面に突き刺さっていた

メフィスが彼の持っていた剣を自身の剣で叩き折ったのだ

まさに、力技


「流石、ゴリ…」

「あっ、手が滑った」

「のわっ!?」


ぼそりとそう小さく呟いたフェレス目がけて何かが勢いよく飛んできた

その何かは彼の頬すれすれに過ぎ去り、後ろの建物に突き刺さった

恐る恐るフェレスが振り返り、それを確認する

突き刺さっているのは紛れもなく先ほどまでメフィスが使用していた剣であった


「メフィス…」

「エルティ、勝ったよ!! 褒めて褒めて??」

「ええ、流石ねメフィス」


怒りを滲ませてメフィスの名を呼ぶフェレスの横を素通りして、メフィスはエルティの元へと駆け寄った

そんな彼女の頭を笑顔でエルティが撫でてやる


「エルティを守れるようにするためだからね」

「ふふ、ありがとう」

「何、無視してんだよ。…怒るのも疲れたんだが」


がっくりと肩を落とすフェレスのその肩を叩いたのはエルティとメフィスではなく、兵士だった


「君たちはほんとに強いんだな。…少々見くびっていた」

「ん、まぁな。次は俺か?」


あれぐらいのレベルなら、自分も楽に勝てるだろう

そう考えたフェレスが少し自信ありげに問いかけた

頷く兵士に連れられて、フェレスが中庭の中心に出ていく

そこには既にフェレスの対戦相手が立っていた


「ちょ、ちょっとまて?」


彼の対戦相手は明らかに先ほどの二人とはレベルが明らかに違っていた

体を鍛えているのが分かるムキムキの身体

そして、鋭い眼光


「歴戦の猛者じゃね!? なんでだよ! 無理無理無理!!」

「あれだよ、私たちが思ったよりも全然強かったからフェレスも相当強いと思ったんじゃない?」

「頑張ってフェレス」

「俺は武闘派じゃねーー!!」


叫ぶフェレスを無情にも審判は無視して、開始の合図を告げた

相手の兵士はすぐには飛び掛かってくることはせずに、こちらの出方を伺っていた

先ほどの二人の試合を観て、警戒しているのだろう


「真正面からぶつかると勝てる気がしねぇんだよなぁ」


鍛えてはいるがそれは一般人に勝てる程度だと自負している

こんなあからさまにムキムキの人間には勝てる気がしない

つまり、自分がとる行動は力技ではない

フェレスは自身の剣を軽く握って構える

刃先を兵士に向け、挑発するように微笑む


「私を挑発するとは…。いいだろう、いざ!!」


フェレスの挑発にあえて乗ったのか兵士が剣を大きく薙ぎ払った

それをフェレスが自身の剣の刃で受け流す


「なに!?」

「攻撃を受け流すことに関しては俺の右に出る奴はいないんでな」


そこは誇れることなのかどうかは別として、フェレスは攻撃を受け流すことによって戦いの流れを握ったのだ


「くっ! だが受け流すだけでは私を倒すことはできないだろう!?」

「まぁ、そうなんだよなぁ。さて、どうしようか」

「私をなめているのか!?」

「いや、まったくこれっぽちも? それどころか敬意を抱いてるさ。国を守るためにその腕を磨き続けているアンタに対して」


なめてかかって勝てるほどの実力差はないだろう

むしろ、相手の方が実力は遥かに上だ

だが、相手の言うとおりこのままでは埒があかないので、フェレスは攻勢にでることにした

フェレスが剣を横薙ぎにするが、相手はそれを難なくかわした

相手がかわすことは想定内である

というか、かわしてくれないと困る

狙いはその先にあるのだ

突如、兵士がよろけた

そこを狙ってフェレスが彼に力強い蹴りを腹部に入れ、そのまま押し倒す

上から見下ろす形で剣を突きつけた

フェレスの勝利だ


「なぜだ…?」

「なぜっていうのはあんたがよろけたことか?あんたが俺の攻撃を避けて移動した先にはうちの妹が作った亀裂があったんだよ」


そこに兵士が行くように誘導したのはフェレスである

そこで兵士がよろけることを見越したのだ

力が無くとも知力で補う

それが彼の戦い方なのだろう


「…完敗だ」

「どーも」







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