可愛いから殴りたい(2/4)


「ふぁ〜…ご馳走様ぁ」

三杯目を平らげて至福に満ちたため息を吐く。

「お茶漬けってすごいねぇ。体中ぽっかぽかだよ」


それはもう汗が滲むほどぽっかぽかだった。身体の奥から燃えるような熱が広がって、顔が火照って頭が眩む。


「空木くん、これ生姜とか入ってたの?」

「いえ。媚薬を入れました」

「……ん? なにそれ?」

「枯れたおじさんを強制的に全盛期以上に盛らせる薬です」


淡々と言いのけると空木くんは黒い小瓶をテーブルに置いた。


「僕の料理の腕ではまだ流さんを快楽に堕とすことができなかったので卑怯な手段を使わせて頂きました」

「え?え? 何言ってるの? ちょっと待って、えっと……ぅわっ!!」


力いっぱい押し倒されて頭をフローリングに打ち付ける。


「いったた…」


目の前がチカチカするような痛みに悶絶している間に空木くんが僕の上にのしかかってきて両手を押さえつけられた。

鋭い視線が真っ直ぐ僕を射抜く。

…何この状況。僕殺されるの?


「流さん。一週間前の返事まだもらってないんですが」

「一週間前…?」

「付き合ってくださいと言いました」


……うーんと、それは…、空木くんに彼女がいないと知って「もったいないなー僕が同い年の女の子だったら何が何でも空木くんと付き合おうとするのにー」みたいなことを言ったら、「じゃあ付き合ってください」と言ってきたアレか。

もちろん冗談だと思ってそのときは「空木くんが我が身を犠牲にするような冗談を言うのって珍しいね」と返したんだった。


「あ…あれ、本気だったの…?」

「冗談で告白するわけないじゃないですか」

「いや!いやいやいやいや!! 空木くん、変なキノコとか食べた? 目の前にいるのはしょぼくれたおっさんよ!?」

「わかってますよ。流さんは皺と白髪だらけで枯れ木のようにやつれてる残念なおじさんです」

「そこまで言わなくても!なにこれ新しい嫌がらせ!?」

「そうやっていつまでも本気と捉えてもらえない気がしたのでこうして強行手段に出たんです」


痛いほどに腕を掴まれて僕は身動き一つできなくなった。

切れ長の目に見据えられて心臓がザワリと震える。


「流さんのことが好きです。冗談でも嫌がらせでもありません」

「な、なんでわざわざ僕なんだい? 空木くんだったら普通に女の子とか選び放題でしょう…?」

「流さんが良いって言ってるんです。面倒なこと言わないでください。ぶっ飛ばしますよ」


…怖い…! 仮にも告白してる人が「ぶっ飛ばす」とか言う!? あと普段から怖いのにいつも以上に眼力が怖い!!


「…返事を聞かせてください」

「…えっ…と、ごめん、頭が混乱してて…なんと言っていいのやら…」

「ですよね。ヘタレの流さんはそんな風にしか返してこないだろうとわかっていたので…」


体を起こしたかと思うと空木くんはポケットから新たな透明のボトルを取り出した。


「強引にでも、自分無しじゃいられない体にします」

「なんだい、それは……っおわ!?」


手早くズボンを下される。よれよれのスウェットは抵抗する間もなく脱がされてしまった。


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