野良犬(2/4)


「これからどうするんだ? 俺をどうやって半殺しにする?」


殺意の欠片も感じられない少年を嘲るように見据えると少年は戸惑いがちに目線を反らした。


「そうなんだよね。…貴方が子供の頃に飼っていた犬に似てて、暴力を奮う気になれなくて」

「……は? 犬?」

「うん。真っ黒で大きくて、雑種なんだけど賢くて優しかったコロに雰囲気がすごく似てる」


てっきり度胸がなくて怯んでいるのかと思いきや素っ頓狂な答えが返ってきて遊馬はポカンと固まってしまう。


「その黙って俺を見てる感じもコロっぽい。…依頼人が『自分の客が取られたから復讐したい』って言ってたけど、取られるのは仕方ないよね。貴方はこんなに魅力的なんだから」


人形にも似た無感情な顔を微かに緩めて少年は遊馬の髪をそっと撫でる。その手つきは柔らかく、まるで愛犬を愛でているかのようだ。


「…なんだそれ。煽ってるのか? 誘ってるのか?」

「別に何も。初めて見たときからコロっぽくて可愛いなーって思って、ずっと頭を撫でたかった」


一回り以上年下の子供にペット扱いされて、冷静を保っていた遊馬の頭の糸がプツリとちぎれる。気づけば手枷を外して少年の手を掴んでいた。


「何? この俺が可愛いって?」

「うん。だって貴方が女の人に人気なのは可愛いからでしょ?」


両手が自由になった遊馬に怯えることもなく少年は迷いなく答える。


昔から、頼りがいがあるだの男らしいだのと散々持て囃されてきてはいたが「可愛い」なんて言われたのは初めてだった遊馬は、今までにない怒りや気恥ずかしさに戸惑って少年を掴む手に力を込める。


「…じゃあ、もっと可愛がってくれよ ご主人サマ」


少年の唇を舐め、受け入れるように開いた口に舌をさし入れて少年の口内を己の煙草の香りで満たしていく。


「……なんだ。満更でもなさそうだな」

「…貴方とならこうなってもいいかなって思ってた」

「はっ、俺に惚れたのか?」

「だって貴方が可愛いから」

「…ふざけんなホモ野郎。俺は男には優しくなんてしないぞ」

「ううん。貴方は優しいよ」


組み敷かれてもなお態度を崩さず真っ直ぐにこちらを見据える少年に気持ちが荒立ち、遊馬はおもむろに少年の首元に噛み付いた。


「っふ…!」


鈍い痛みに身じろぎながらも少年は遊馬の髪をくしゃりと柔らかく撫でる。

そんな感覚がむず痒く、ざわつく心をごまかすように遊馬は少年のシャツを捲り上げて胸部に思いきり歯を立てる。


「ぅあっ! あ…っ!」


箇所をずらして今までよりも強く歯を食い込ませると少年はビクリと身を震わせた。だが漏れ出る声は甘く、艶めかしい色気を孕んでいる。


「こんな風にされるのが好きなのか?」

「ん……、嫌いじゃない」


浅く息を弾ませながら答える少年の顔は赤く上気して、蠱惑魔に瞳を潤ませていた。


「変態が」


胸の歯形に爪を立て、反対側の胸を湧き上がった欲情に任せて噛む。

このまま噛みちぎってしまいたいと思った。それほどまでに理性を奪われてしまっていた。

肉を噛むという動物的な行為は強かに性欲を掻き立て、絶えず髪に触れている手の感触の心地よさが脳内を甘く疼かせる。

遊馬は本当に獣にでもなったかのように無我夢中で少年の体に痕を刻み続けた。



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