※※第334話:Make Love(&Comfort).202







 「妻の写真はまだフォルダ作ってないんですけど、弟の写真ならフォルダあるんですよ!見ます?宇宙一可愛い弟ですよ〜!」
 「……は?」
 話を広げてもらえているのだと解釈した綾瀬先生は、スマホ(←弟がロボットのほうなのでお兄ちゃんも勝手にお揃い)を勢いよく取り出した。
 自分が毛嫌いしている人物とどうしてもイメージを重ねてしまう醐留権は、心の中で綾瀬兄のスマホを叩き割っておいた。

 「しかもあいつツンデレで、そういうとこも可愛いんですよねえ……ほんとはお兄ちゃんのこと大好きなくせに、つれない態度を取るんですよ。可愛いでしょ?醐留権先生はご兄弟はいらっしゃるんですか?」
 フォルダを先輩教師に見せる前に自分で見てうっとりしてしまった綾瀬兄は、おそらく、地雷を踏みまくっていた。
 そうとは知らずに、あまりにも余計なことまで尋ねてしまった。



 「……綾瀬先生、あなたに一つだけ、断言できることがあります……」
 「何でしょうか?」
 恐ろしいほど静かに席を立った醐留権は、さっさと放って授業に向かうことにした。

 「弟さんはあなたのことを相当嫌っていますよ?兄の命とゴキブリの命を天秤にかければ迷わず、ゴキブリを選ぶでしょう。」

 と、きっぱりと言い捨てて。
 弟とはじつは知り合いだとは、この時点ではまだ気づいていなかった。



 「え!?醐留権先生!?数学準備室の場所は!?」
 「自分で探してください。」
 驚いた綾瀬先生は数学準備室への案内をしてもらえるはずが、無下に扱われただけだった。
 こんなに相性の悪そうな教師が一時的にとは言え後輩になるとは、ゾーラ先生は先が思いやられた。

 「じゃなくて、僕はなぜ弟に嫌われてるんですか!?しかもゴキブリ以下!?あり得ない、ずっと可愛がってきたのにーっ!」
 最大の疑問が若干遅れてやってきた綾瀬兄はガタンと席を立ち上がり叫んだものの、醐留権はすでに職員室をあとにしていた。
 周りの先生方は何事かと、呆気に取られている。

 「綾瀬先生はさっそく、醐留権先生を敵に回したのか!面白くなってきたな!」
 ナナたちの担任こと吉川先生だけは、ハイテンションで笑っていた。




 ちょうど、綾瀬兄の弁当に縫い針(蛭は結局入手できなかった)を仕込もうと職員室の反対側の入り口から顔半分だけ覗かせて中の様子を窺っていた萌は、感心しすぎて呟きがまるで虫の息になった。

 「醐留権先生……ありがとう……」

 一樹んの気持ちを代弁してもらえたようで、無性にすっきりしながらも佇まいはホラーチックだった。

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