※※第325話:Make Love(&Sex aid).43
綾瀬はとてつもなくホラーじみた視線を、目の前に送っていた。
ここは賑やかなファミレスだが、とでもではないが賑やかな気分になれない。
「一樹、ようやく髪切ったのか!やっぱお前は可愛いな!」
目の前には、高身長バージョンの綾瀬がスーツ姿で座っている。
ドリンクバーは二人ぶん頼んであるものの、綾瀬は何も持ってきていない。
「兄さん……用があるなら早く済ませて……」
「そんなつれないこと言うなよ、久しぶりに会えたお兄ちゃんだぞ?」
「お兄ちゃんとか言う年齢じゃないし……きもい……」
綾瀬は兄に、用があって呼び出されたようだ。
身長以外はだいぶ似ている兄弟となっている。
綾瀬の「きもい」はほんとうにぼそっと言っただけだったため、兄にはかろうじて聞こえていなかった。
「用件は他でもない、今まで何度もお前に忠告してきたことだ。」
急にキリッとした表情になった綾瀬兄は、腕を組み、ファミレスに弟を呼び出してまで伝えたかった忠告とやらを伝えた。
「お兄ちゃんのインスタをフォローしなさい!」
……それLINEで伝えるだけじゃ駄目だったの?
「一樹に見てもらうためにインスタ始めたのに、何でフォローしてくれないんだ!」
「きもいから……」
「お兄ちゃんのどこがきもいんだよ!」
「全体的に……」
綾瀬はそろそろLINEも、ブロックしたくなってくる。
これ、きっと、比較され続けてきた綾瀬にとっては“僕と違って要領のいい兄さん”になるのだろうな。
「一樹、お兄ちゃんはそういうところも含めてお前が好きだぞ。要するにツンデレだろ?ツンデレ可愛いよな。」
「えええ、マジできもい……」
じつは綾瀬兄は能天気と言うべきかポジティブと言うべきかドMと言うべきか、変わった人物なのは確かなようだ。
醐留権先生はデジャヴを感じそうなお兄さんである。
「いいから、フォローしてよ!早織(さおり)の作ったご飯もたくさん載せてるから!」
ここで、スマホ(←りんごのほう)を翳して見せた綾瀬兄は、弟の幼馴染みでもある嫁の名前を出して、フォローを促そうとした。
それが、いけなかった。
兄の嫁は、綾瀬が決して手に入れられなかった初恋の苦さを思い出させるからだ。
「兄さんなんて……死ねばいいのに……」
「えっ!?一樹!?」
震えながら、いつぞやの屡薇にもらったサインの文句を引用させてもらった綾瀬は、青ざめ走り去った。
弟に恐怖の一言を放たれた兄は、唖然としつつ、ドリンクバーのオレンジジュースを飲んだ。
綾瀬兄は臨時教員として働く際に、ゾーラ先生と上手くやっていけない気がする。
……綾瀬の心の傷が真に、癒える日はくるのだろうか?
…――It's the spell of the heart.
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