※※第270話:Make Love(&Expectation).164
日曜日の朝、その男はめげずにやってきた。
ふたりっきりワールド全開でいた愛の巣の、インターホンが鳴り響く。
なんとなくどいつなのかがわかった薔は溺愛も溺愛している彼女との朝食の準備を邪魔されたために、とてつもなく険しい雰囲気で応対に向かった。
大人しく待機を命じられたナナはキッチンにて、直立不動となっている。
「あっ、薔ちゃ〜ん、おはよう!今日も朝からイケメンすぎね?俺だよ、俺!」
昨夜帰ってきたのか今朝帰ってきたのかは定かではないが、屡薇は元気よく朝っぱらからオレオレ詐欺まがいを行った。
おそらく、ミッション?の続行を真依に促されたのだと思われる。
インターホンを通してでも険しさは容赦なく伝わりくるほどでも、屡薇は決して陽気さを失いはしなかった。
高校生相手にオレオレ詐欺っぽいことやってんな俺とは、薄々気づきはしましたけれど(相手が高校生っぽくないから仕方ないと言えば仕方ない)。
ブツッ――――…!
よって、オレオレ詐欺まがいの挨拶をしただけで、インターホンは切られてしまった。
屡薇の扱いは着々と、醐留権先生へと近づいている。
「ちょっ、薔ちゃん!?俺だってば、俺!」
もはややりとりにも発展せず、インターホンを切られてからもオレオレ詐欺まがいの訴えを投げ掛けてみた屡薇は、
「……飛び降り自殺する歌でも、作ろうかな……」
なんだかメランコリックな一曲ができそうな気がしつつ、とぼとぼといったん隣の部屋へ戻った。
ただただ真依と一緒に海に行きたいだけの気持ちが、絶好調に迷走中である。
そんな真依は確実にこの状況を、たいそう悦んでいる。
「気色悪りぃもん見ちまったな……」
不愉快すぎて一言も返してあげなかった薔は、次回からは完全なる無視を決め込むことにして彼女のもとへ戻った。
それにしても、バンドマンが鬱々とした一曲を作れるくらいのつれなさなら、結果オーライのような気がする。
「あの……今のは、こないだテレビでやっていた“さぎ”というやつですよね…?」
インターホンを通した喧しい声はナナの耳にも届いていたようで、彼女はいつぞやのニュースで注意喚起を促していた振り込め詐欺なのではないかといささか心配した。
しかしながら、もしほんとうに詐欺だとすれば彼氏が容易く仕留められそうにも思えている。
朝から気色悪いものを見てしまったあとの、ちょっと心配している様子の彼女の姿はあまりにも可愛すぎて目の毒をいとも容易く凌駕していた(※薔ビジョン)。
「んー……おまえ可愛いな……」
「ほわあああっ!?」
なので薔はいきなりの、甘えたモードに突入した。
後ろから抱きしめられたナナは菜箸を落っことし、やはり屡薇の詐欺まがいは結果オーライだった。
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