※※第229話:Make Love(on Her bed).135
やや薄暗くなりかけている、放課後のとある高校。
生徒の姿は、校舎内にはほとんど見受けられない。
そんななか、生徒会室より、やけに神妙な女の声が微かに響いてきた。
「532枚、533枚……」
女の声の後には、ガサガサという紙を探るような音さえ聞こえてくる。
静まり返った校舎に響く、奇妙な音。
女は一体何を、そんなに慎重に数えているのだろうか……
「わあ、すっげえな!また今日もこんだけの推薦が来てんのか!」
ホラーチックを醸し出していたところへ持ってきて、生徒会長の福田くんが嬉しそうに感嘆の声を上げた。
ちなみにこの物語のジャンルは今さら言うまでもありませんが、ラヴコメであって決してホラーではありません。
「立候補は今のところ5組来てますが、推薦でこれだけの票を集めるとは……てか一人一回の推薦のはずが、すでに全生徒の人数を票数が上回っているんですけど……」
数え間違えないように真剣に投票の紙の枚数を数えていた副会長さんは、緊張による汗を拭った。
「うん、そうだね。だってあのカップルがエントリーしてくれないと学園祭盛り上がらなさそうだし、でも立候補はしてくれないと思ったから、おれも今日は2票入れといた!」
「会長がそんなんでどうするんですか!まあ私も今日は3票入れておきましたけど!」
どうやら数えていたのは、学園祭のメインイベントであるカップルコンテストのエントリーのために設けた投票箱の中の投票枚数のようだ。
すでに生徒会長も副会長も、推薦は一人一回というルールを守ってはいないらしい(なら他の生徒たちも守ってはいないだろうな)。
「これだけの推薦が来ているということは……、否応なしにエントリーであることをお伝えしたほうが……よろしいですよね……?」
ここで、書記の男子生徒が恐る恐る最も重要と思われる点を尋ねてみたのだが、
「いや、それはまずい!否応なしにエントリーということで、お伝えすることなくエントリー表におふたりの名前を載せるしか方法はない!」
厳格な態度で、福田くんはきっぱりとエントリーの方法についてを提示してきた。
「えええ!?それでいいんですか!?」
副会長さんも書記くんも会計さんも、驚きの声を上げたのだけど、とたんに威厳を喪失し畏縮し始めた生徒会長くんはぽつりと皆に聞き返した。
「だってさ……許可、すんなりいただけると思う……?あとおれ、生きて帰って来れると思う……?」
「……許可はいただけないと思いますが、会長が生きて帰って来ることはできると、思います……」
「なんかもう断言できてねぇし、おれできることなら寿命縮めたくもねぇもん……」
「それは……そうですね……」
勝手にエントリーさせた暁のほうが恐ろしい事態が待っていそうだが、生徒会の皆さんは誰が確認に行っても許可はいただけないだろうという考えから、“圧倒的推薦枠”としてそのカップルは否応なしにエントリーさせる気満々だった。
くどいようですが、この物語はホラーではありませんので。
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