※※第228話:Make Love(&Sexily).134








 「俺、ほんと、何やってんだろ……マジで泣きてぇよ……」
 屡薇は溜め息混じりに、俯き加減に口にした。
 昨日は進み過ぎた煙草すら、今日は数本に留めただけだった。

 ベランダに出るとそこは、周りからの人工的な明かりが射し込んでいた。
 屡薇はしょげ返り、あたたかな6月の夜風がふたりのあいだを吹き抜けてゆく。

 「間違っても俺の前で泣くなよ?想像したくもねぇほど気色悪りぃからな。」
 ベランダのフェンスにもたれて、薔はきっぱりと念を押す。

 「薔ちゃんたら……相変わらずいけず……」
 「いいから早く相談して来いよ。」
 この光景を動画に収めて……という手で何とかできそうな気もしなくはないが、屡薇はぽつぽつと、亡き彼女への歌を作った辺りから、薔へと打ち明けていった。
 薔は黙って、屡薇の話を聞いていた。















 ――――――――…

 「あ、買いすぎた……」
 真依は仕事の帰りに立ち寄ったスーパーマーケットでの会計を済ませてしまってから、無意識のうちにふたりぶんを目安に購入していたことに気づいた。
 今日はスタイリング講習があり、帰りはいつもより遅くなった。

 もはや生活のなかに彼が溶け込んでいるのに、この想いはどうやっても報われないものだったのかと、無性に泣きたくなる。


 昨日だって、追い付いてほしくなかったことは確かなのだけど、ほんとうはもっと追いかけてきて欲しかった。
 乙女心は何とも、複雑であります。



 (冷凍でも、しておくかな……)
 俯き加減にスーパーを出た真依には、やけに買い物袋が重く感じられた。
 同時に、足取りも。

 屡薇のためにと新しい料理にもいくつか挑戦してみたが、すべてが水の泡になってしまったように思えていた。
 こんなことなら、ずっと、片想いのままでいたほうが気が楽だったのかもしれないと、真依は考える。
 彼の、今は亡き姉への愛情を思い知ったままで、結ばれることなく遠くで見ているだけのときのほうが、こんなにもやるせない苦しみは押し寄せたりはしなかった。
 けれど、彼と一緒に過ごせた日々が、何よりも楽しく幸せだったのは揺るぎない事実として心に刻まれている。




 「できることなら、もう一度会いたいなぁ……」
 ふわりとした夜風に吹かれた真依は、夜空を見上げて溜め息をついた。
 ネオンが星の瞬きを隠していれども月が綺麗な夜に、呟きは夜空へと昇って行った。

 「豆くんに……」









 …――――些細な呟きすらも、素直じゃありませんね!

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