※※第217話:Make Love(&Seek).126







 普段はお昼休みはたいてい錠が掛かっている放送室の扉は、難なく開けることができていた。



 「遅ぇよ。」
 放送室へと飛び込んだ萌の目の前にはかなり険しい雰囲気の薔が立っており、彼より一歩下がった辺りに立つナナはこの子が犯人かぁあ!とまじまじと萌を見た。
 予め扉近くにてスタンバイしていた放送部の副部長さんが、すかさず放送室の入り口の錠を掛ける。
 部長くんはいつでもマイク操作ができるようにと、マイクの前にスタンバイしていた。
 名誉ある呼び出しを食らった放送部の部長くんと副部長さんは、高校時代のいい思い出になるだろうとじつに生き生きと活動に励もうとしている。




 「ぎゃぁぁぁぁあああああ…!美しすぎる…!」
 憧れのおかたの姿がいきなり目の前にきて、震撼して悲鳴を上げた萌はビタッ!と放送室の扉に張り付いた。
 心臓は口から飛び出すか飛び出す前に止まってしまってもおかしくはない状態だ。

 そんな萌に向かって、薔は堂々と返した。

 「確かに俺のナナは美しすぎるが、お前いい加減にしろよ?」










 (薔さまのことを申しておるのですが…!)
 ひたすら慌てふためく萌はどうしてそうなったのかについては謎だったが、畏れ多くてツッコミは入れられなかった。

 (あきらかに薔さまのことだと思われますが……)
 放送部のふたりも雰囲気などからしてそこにはちゃんと気づいたが、お伝えすることなど到底できやしなかった。
 肝心のナナも、女の子の雰囲気に何だかイラッとしてしまった。


 「そもそも、こういうくだらねえのでナナの気を引こうって言う考えが陳腐なんだよ。」
 薔はこの日のためにわざわざ持ってきてやったドファンシーな塊を、厳しく言い聞かせながら萌に手渡した。
 蜘蛛はわんこたちの歯形やなんかでボロボロすぎたのと、手渡す瞬間に目にしたナナが怖がってその姿を周りに見られてもいけないために持っては来なかった。

 萌は距離が近くて口からもはや魂が飛び出そうだったが、このドファンシーな塊は一生ものの宝物にしようと心に決めた。

 「えーっ!?返しちゃうんですかぁ!?」
 ファンシーなものたちが可愛らしいのでなかなか気に入っていたナナは、残念そうに声を上げ、
 「欲しいならもっとクオリティの高ぇやつを俺が買ってやる。」
 「わあ、ありがとうございます!」
 たかと思いきや、すぐに大喜びをした。

 イチャイチャし始めたふたりを見ながら、出番はまだかと放送部長くんと副部長さんはウフフとし、

 (三咲先輩って改めて考えてみると、あの距離でイチャつけるってすごいなぁ……)

 間近で拝めた萌の心には、ナナへの敬意が芽生え始めていた。

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