※※第197話:Make Love(&Passion).115
「屡薇がなんか、ぬぼーっとしてる…」
「あんなにぬぼーっとしてる屡薇は久しぶりに見たな…」
メンバーたちはコソコソと、屡薇の様子についてを話していた。
以前にはわりとぬぼーっとしていたようだ。
本日は真依は仕事のため、スタジオでリハーサルを見学したのは一時間ほどで、あとは屡薇がタクシーを手配してきちんと家に帰らせた。
真依は帰り際、ほんとは来たくなかったのかもっと見ていたかったのかがわからないような態度を取ってはいたが、結局はもっと見学していたかったのだと思われる。
スタジオに用意されたパイプ椅子に座って、久しぶりにぬぼーっとしている屡薇は一息つくために購入してきた缶コーヒーの口を、
ドボドボォ…
傾けて中身を床に溢していた。
「おまっ!何やってんだよ!」
すかさずボーカルの摩闍が、ティッシュを箱ごと片手にし拭き取りにかかった。
どうやらボーカルくんは、かなり世話好きな性格のようです。
「ちょっと!おれにかかるから、頼むから上に向けろ!」
「え?あぁ、わり…」
我に返った様子の屡薇は、缶コーヒーの口を上に向けてから、
「俺の股の間で何してんの?」
キョトンとした。
「お前がコーヒーをこぼしたんだろ!」
せっせとティッシュで床を拭いてくれている摩闍は、憤慨しながらも丁寧な作業を行っている。
「相変わらず気持ち悪いくらい仲良いな、あのふたり…」
「あの体勢はあれだ、アレだよな、うん…」
「“おれにかかるから”だって…」
周りもだんだんと、ぬぼーっとし始める。
ストーカー騒動が落ち着いた鴉姫は、基本的にはぬぼーっ(正しくはぼんやり)としているようですが。
(やばいな、俺、ちょっとどうしたらいいかわかんねえ…)
再びぬぼーっとし始めた屡薇は、スタジオの照明を細めた瞳で見上げていた。
(あんなこと聞いちまったから、薔ちゃんが心配だよ……)
居合わせてしまった屡薇が、戸惑いを隠せないでいる。
薔は気丈にというか何も動揺などしていないように見えたが、初日の言葉が事実だとすれば彼らはどうなってしまうのか。
どうもならないことを、願いたいものだけれど。
「だからこぼすなよ!」
「え?何を?」
……缶コーヒーね、缶コーヒー。
仕事のために帰宅した真依にとっては非常に惜しい光景である。
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